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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
53/171

眠れない夜にお話をする 1

 ある日のこと、六人と一体は森の中で野宿していました。たき火に野生動物よけの香りのする木の葉を入れ、テントの周りを確認し、見張りの当番二人を残して眠りにつきました。


 フリューシャはふと目を覚ましました。出入り口を少しめくると、当番の夏樹がそれに気づきました。とても小さな声でまだだよと言いました。

 寝床に戻っても眠れず、フリューシャはぼーっとテントの天井を眺めました。木の葉のきつめの匂いが、テント内にも十分にいきわたっていて、虫の羽音もしません。

 時々誰かが寝返りをする、寝袋や布団がこすれる音がするのと、他の多くの種族ではわからないくらいの声で、外の夏樹ともう一人が合図をしあっているところ、そして外で弱い風が吹いて木の葉や草を揺らすのが分かるのでした。


 フリューシャは夏樹が話していたのを思い出して、羊を数えることにしました。声に出さないよう注意して、一匹、二匹、と心の中で思い浮かべます。しかし、彼は、羊を見たことはありません。北西の端のほうの、寒いところに行けばきっと現物にお目にかかれるでしょうが、それはまだ先のことです。書物で何となくそういうものがいるということはわかるので、何とか思い浮かべて数えていましたが、三百匹数えても、少しも眠気が起きません。


 数えても眠れない、と夏樹に言ってみましたが、他に眠れそうな方法が思いつきません。やがて交代の時間になり、タリファが夏樹と入れ替わりました。フリューシャはタリファにもいきさつを話しました。

 聞き終えたタリファは、不安とか心配とか、怖いとか、そういう気持ちがあるからじゃないかい?というのですが、フリューシャには覚えがありません。わかってないだけで、心の奥に誰だって持ってるものだよ。タリファは言いますが、フリューシャには彼女に何か怖いものや、(お金に関する以外の)心配事があるようには見えませんでした。


 ばかだねえ、とタリファは笑いました。そりゃ簡単に言えないよ。彼女は口を押えて笑いを止めてから小さい声で話しました。


「でも、そうだねえ。あんたたちにはまだ話してなかったね。かなり前にシュピーツェとハユハユに、こないだテトグには話したし、そろそろかな。」


 タリファは、少し離れていた二人の間を、詰めて座りなおしました。




 あたしはあんたたちと出会ったとき、リャワに住んでたよね。その前まで二十年くらいかな。一人か、たまに二、三人で旅してたんだ。


 生まれはもちろん北方さ。ムィルースィと西方山脈の境目あたりかな、鍛冶職人の町だったけど、あたしらの穴は彫金職人でね、鍛冶屋が作った武器や鎧に、魔法の文様を彫りこむ工房だったんだ。


 穴では、早いと三歳くらいかな、一通り自分のことができるようになるとすぐに道具を持たせて、仕事を教えるんだ。あたしも四歳半のときに、最初の『仕事』をした。だめだめだったさ。魔法はうまく込められても、文様が汚いって。何年たっても、変な模様にしかならなかった。魔法も得意じゃなくて、最低限しかできないしね。ああ、ドワーフの魔法だよ。穴の外の魔法は、まあ、人並み、かな。


 それからずっと上達しなかったあたしは、十一歳の誕生日の一週間前、親に売られた。売るっていうか、集落に来ていた行商の人にお金を握らせて、あたしを外に連れ出させたんだ。

 今日は雪が降らないからちょっと一緒に町まで行ってみようよ、お母さんたちも行って来いっていってるよ、って言われてさ。信じてついていったのさ。夕方になってもどんどん集落から離れていくのが怖くて、その商人に質問するまで、あたしはちっとも考え付かなかった。




 フリューシャはタリファの口元や目を見つめながら話をじっと聞いています。

次回は明日22日土曜日に投下します。

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