超能力は魔法の代わりになる? 2
飛んでいく最中に、ハユハユの目には、女の子が野球のサインかなにかのように、動作をしてからトントンと足を鳴らすところが映った。そして、村人の中に、ややずれて同じテンポで足を鳴らす者がいた。ハユハユは少し考えた後、フリューシャたちに声をかけておいて、人々の足元へ潜っていった。
次の村人はカードを五枚引いている。男はそのうち三枚を言い当て、四枚目をこたえようとしている時だ。
「ん、女の子の様子が変だ。女の人も慌てているんじゃないかなこの様子だと。」
フリューシャが小さな声で隣のシュピーツェに話しかけた。ほぼ同時に男は言い淀み、女の口上が少しずつ突っかかってぎこちないものになった。
ハユハユは行動する前に、女の子に目を光らせておくように、と言った。しかし女の子は先ほどの足鳴らしをやめ、困った顔で右往左往している。それに気づいた女の様子は先の通りだ。
フリューシャとシュピーツェが人込みを外側へ抜けていくと、途中に転んだまま座っている人がいた。村人のようにも見えたが、どこどなく周りの人達とも自分たちとも違うファッションだ。そして座っている人の頭にハユハユが乗っていた。
「こいつがおそらく暗号で男に伝えておる。」
ハユハユはダージュとタリファを呼びに一度戻ると、何かごそごそ話をしてから彼らを連れてやってきた。そして、ダージュが人込みに向かって叫んだ。
「俺たちにもできるぞ」
人々が一斉にダージュに注目し、フリューシャと夏樹はいったい何がどうなっているのかと不安になるのだった。
男は邪魔されて怒るでもなく、関心を示した。女は怒っているようだが、ぜひ見せてくださいと男は手で制した。ダージュは指示を出すからとシュピーツェとハユハユに耳打ちし、男たちと同じようにテーブルの前に立った。そして、同じように適当な村人にカードを三枚引かせた。
ダージュは、この子が当てます!と言って夏樹を巻き込んだ。長耳族だから魔法でわかると言われないための作戦だ。夏樹はダージュに手を引かれて村人の前に立ち、少し悩んだ後に、詰まりながら三枚分のマークと数字を述べた。
「急に言われても困るよ。僕が気づかなかったらどうするつもりだったのさ」
ダージュの無茶ぶりに文句を言いつつも、夏樹は次に五枚にチャレンジして、四枚を当てた。一枚は数字はあっていたがマークが違っていた。
腕組みしてみていた男はうんうんと頷いた。
「すばらしい!我々の仲間だ!一緒にこの素晴らしい力を広めようではないか!今からでも旅に加わってくれ!」
手を引かれた夏樹とダージュは丁重に断った。夏樹は申し訳なさそうに下を向き、ダージュは男の目をまっすぐ見つめた。女が割り込もうとしたがまた男に制止された。
「だって、超能力でも何でもない。ただの、手品だよ。しかも、魔法よりめんどくさい!」
ダージュが言った途端、女が静止していた男を突き飛ばして、彼に突進してきた。駆け付けたシュピーツェとタリファが捕まえて腕を絡めるようにがっちりと動きを止めたが、女はやめろ!と騒ぎ立てている。
「まず、一人仕掛け人を用意して、集まった人にまぎれて暗号でカードを伝えるんだ。どうやって見てるかまでは、いろいろ方法があるからこれとは言えないけど、とにかく、しぐさとか、人が見てない、視線に隙がある場所で、超能力者役に教えるだけさ。
教えてるのがバレなければ、波動から読み取るとかはまずできない。こんなもんかな。」
ダージュが話すうちに女はどんどん声が大きくなり、途中で急に静かになった。
「そうだよ、超能力なんかあるわけないじゃないか」
女が言うと、最初にカードを当てられた村人が、冗談じゃないよ、と言った。女が殴られると思って目を伏せたが、村人は一人も襲ってきたりしない。
村人は、開けていないカードの束を、手が空いている夏樹に渡した。そして、何かを読み上げるようにすらすらと何か唱えた。
「上から盃の9、剣の1、星の9、剣の13、大樹の8、心臓の6……」
十枚分ほど読み上げたところで夏樹がカードを開けると、確かにその通りに並んでいる。
女は、女の子も男も置いたまま、わあああと叫んで村の外へ走り去った。女の子が大きな袋を重そうに引きずって追いかけようとしたが、女はあっという間に出て行ってしまった。
「なんということだ!本物の超能力者が存在するなんて!!!!」
女が走り去ると同時に男は叫んで気絶し、女を追いかけるのをあきらめた女の子が一生懸命男の胸やおなかを揺さぶった。
「俺もう二度とここには来たくねえ……。」
ダージュが男の横で膝をおって毒づきしばらく動かなかったが、その後五人で彼を引きずって立ち去るのであった。
次回は22日金曜日に投下する予定です。
21日追記:22日は土曜日ですね…。紛らわしいので今日投下しますごめんなさい。




