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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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言葉は大事なオマジナイ 4

長くなってしまいましたが全てとあるキャラのせいです。該当箇所は斜め読みでいいとおもいます。

 七日後、フリューシャたちは規定の仕事を終えて給金をうけとった帰りに警察署へ立ち寄った。この世界の警察はほぼ全てがその国や自治区の軍隊の治安維持部隊であり、日本の交番や気さくな広報しか知らない夏樹にはとても恐ろしいものに見えた。あんな筋肉ぞろいに追跡されてつかまりたくない。居るだけでかなり抑止力がありそうだ。


 動機だけはどうしても話さず、お前たち被害者本人には話すってところまで交渉したからあとは面会して直接やりあってくれと、留置所の前まで案内された六人と一体。気づいた男は足の鎖の存在を忘れて、さっと立ち上がろうとして立てずに足をもつれさせた。


 案内していた係の者が、来客を知らせるよりも素早く、男は転んだ姿勢のまま勢いよくはいずって、檻の鉄棒をつかんだ。


「お前らッ!!お前たちはッ!何度!このぼくの手柄を横取りすれば気が済むんだッ!!」


 六人は何のことだろうと不思議に思った。その表情が男にとっては、『お前がどろいからオレたちがさっさと解決してやってんだよォおまぬけちゃんがヨォ~』と幻聴が聞こえるくらいに煽っているように感じた。

 もちろん六人にそんな意図はまったくない。他の人が見てもただ返答に詰まって困っているくらいにか見えない。




 旅をはじめて五年めの、冬のことだった。このぼく、クリスティン・ノヴァレグ・リュフォン・ブディア・スティアーナは旅をはじめてすぐに訪れた町のひとつギルに再び舞い戻ったのさ。入国審査官もぼくのことをおぼえていて、歓迎してくれた。町に入ってからもずうっと、人々はぼくを讃えた。あのときぼくが盗賊団を壊滅させてからずっと、ずうっと、町は平和だったからだ。しかし、数日後、町に緊張が走った。隣国から逃げてきた凶悪犯が、城壁の不備を突いて町に侵入したからだ!

 ぼくは町の人に引き止められながら、犯人を追った。国境から離れ、間に兵団持ちの大きな都市があるにも関わらずギルまで逃げたくらいだ、潜伏がうまい奴らだって事は明白だ。ぼくは裏通りの突き当りまできっちりと調べ、犯人を追い詰めた。ぼくが剣を抜き、華麗にキメる間合いをとれたと同時に、屋根の上からそこの獣人が薄汚い格好で飛び降りてきて、ぼくを踏み潰した!そしてそこの混血野郎が卑怯にも長距離用の弓で麻酔矢を放ち、犯人を眠らせ、そこの身元不明が担いで持っていってしまった。

 見つけたのはこのぼく!クリスティン・ノヴァレグ・リュフォン・ブディア・スティアーナだったのに!!あの町の人たちは優しいから、君たちを褒めたよ。なんと言うことだ!人々の優しさに付け込みお前たちはいくつかの町で、同じようにこのぼくが得るはずだった名声を!感謝の品々をッ!次々と奪い去ったッ!

 だがこのぼく、クリスティン・ノヴァレグ・リュフォン・ブディア・スティアーナは寛大な心で君たちを応援する気持ちがあったのだ、つい先日までッ!!

 入国したとき、審査の待合でお前たちの声が聞こえたぼくは、お前たちが初入国で最初から首都に向かうことを知った。ぼくも首都に用があったから、監視のため、お前たちを追った。

 そこでぼくはあの、数年に一度個数限定でしか販売されない伝説の『海エルフの宝石』のタルトの売出しが近々あることを知ったのだ!ぼくは情報を集め、それがあの世界に名声とどろく上級菓子店『命の木の実(読み:ドルンプ・ズ・ネイユ)』だと分かってその奇跡のめぐり合いに感謝したよ!

 当日、ぼくは朝早くから通りを見張って、早すぎて見苦しくないように気を配って、並んでいた。ぼくより十人ほど前に、お前たちがいた。列が半分ほどになったところで、店員が残りの個数を知らせ、その個数の人らしい、ぼくより数人後ろにいた紳士にお詫びの言葉を述べていた。

 ところがだ、不届きにも空気を読まず一人で制限個数全開まで買った輩がいる上、そのことを知りながら、六人のうち三人が二つも購入し、さらに、その波動生物までが人間様一人前以上の大きさのそのタルトを平然と買ったではないか!何という無駄!それ以上に、ああ、嗚呼!何ということか、その餅が購入したものが、最後のひとつだったなんて!!!お前たちが最高で六つしか買わなければ!!そうすればあわよくばぼくが最後のひとつを購入でき、記念の品をもらうことが出来たのに!!!

(ここでクリスティンは鉄棒をこぶしでがんがんたたき、痛みでうめいた)

 海エルフの宝石、それは数百年前に初めて原産地から大陸へもたらされて以来、一度も栽培技術が確立されたことがなく、毎年数回の輸入のほぼ全てが王室への献上品と貴族たちの買占めに消えてしまう、選ばれたもののみが手にするべき惑星の遺産!!それを惜しみなくつかい、一点の妥協も曇りもなく吟味した素材と組み合わせた至高の一品!!灯りの呪文すらまともに機能しない出来損ないとはいえ、純粋な長耳族が買うのは、まぁぼくも理解できるよ。長耳族の甘味にたいするこだわりはぼくも一目置いている、素晴らしい審美眼の発露のひとつ。だが!!だがね!!混血のちんちくりんや、猫獣人や、世間知らずや、中途半端なチビや、身元不明や謎餅が、おこがましいと思わないのかッ!!!お前たちの心は根が張っているのか!!!まして、お前たちのせいで、前途ある若者を優しくいたわるべきそのタルトはその身より小さな謎餅の体内へ消え去った!!何たる損失!!ぼくはすぐに、店員のひとりに声をかけ、人間はともかく餅を一人前扱いするのかと、店への最大限の礼儀をもって、質問したのである!店員は黙ったままだった。ぼくは恥を忍んで、まだ往来の激しい道でひざを折り頭を道にこすり付けるように下げた。ぼくの謙虚な振る舞いに、店員は心を開き、頭を上げてくださいお客様、と震える声で言った。ぼくは店や店員を恨んではいない。何も悪いことはないさ、と目で訴えた。やわらかく手を取って、立ち上がると、美しい所作で礼をしたぼくに、店員は微笑んだ。しかし、そんな彼でさえ、ぼくが複数買いした不届きものから三倍で買取り、かつ同額を店に支払うと申し出た途端に、その店員は「店のものが恥ずかしい思いをする」「他のお客様に失礼」と言ったのだ!なぜぼくの愛が分からぬッ!!

(ここでもう一度鉄棒を殴ろうとして、そっと手を引いた)

 ああ、世界はなぜぼくの愛を拒絶するのだアッ!!!そして、なぜお前たちばかりが世界に愛されるのだアッ!!!




 よどみなく喋り続けたクリスティンを、もはや誰も見ていなかった。侮辱の言葉を掛けられたテトグやダージュ、シュピーツェは程度の差はあれど腹が立ったから頭の中で彼を倒す仮想訓練でいっぱいだったが、フリューシャは「なぁんだ、そんなに欲しかったなら普通に声をかけてくれたらよかったのに」とニコニコしている。タリファは仮想どころか今すぐぶんなぐってやろうと、自分も中に入れてくれと言いながら案内の人の胸倉をつかんでいた。

 夏樹は急に体が重くなった気がして、もう帰ろうよ、と五人に声をかけるが誰も反応しない。


 そしてクリスティン側も、彼らには目もくれない。動機だけで十分なのに、聞いていないのにまた喋りだした。




 ぼくは魔法禁止が解かれた直後から開設された新しい魔法科アカデミー(注:専門過程や研究者しか通わない)で、歴史学科を修め、卒業式では上位三名に選ばれ特別な魔術道具を賜っているんだぞ!そのような、人々の上に立つべき未来を背負うぼく、クリスティン・ノヴァレグ・リュフォン・ブディア・スティアーナを、魔法が使えぬ長耳族だの、常識も知らない異世界人だの、身元が保証されない怪しい者だの、未開の獣人だの刃物をもてないダメドワーフだのが馬鹿にして言い理由なんか存在しないでしょうッ?……お前たちの意見など求めていない!お前たちは馬鹿になどしていないというが、そんなはずはない。ぼくに敬意を表するならば、今まで数え切れぬほどの身の程をわきまえぬ無礼な行動を、ぼくに対して取るはずがないではないかッ!!

 ぼくは、失意から身体の疲れが増し、早めに寝台に横たわっていた。次の朝目がさめてすぐ、何か大きな魔法を見せ付けてやればぼくがお前たちより偉大なさまを、示すことが出来るではないかと考えた。それだけでは足りないと不安が襲ったぼくは、大事な魔道書に何かふさわしい魔法がないかと記述を探したのだ。そのときに、魔道書の間に、お前たちが見たであろう、魔方陣の皮紙が挟まっているのに気づいた。先人からの啓示だ!ぼくは急いで解読に取り掛かった。挟まっていたページの前後に関連する記述を見つけたぼくは、あの紙の魔方陣には不完全な魔法がこめてあると分かった。もちろん古代語の文字だから細かいところは分からない。でも、相手に何か傷やおぞましい目を与え恐怖させる、そういうものだということだけは間違いないのだ。

 古代文字を扱えないぼくには、一から陣を書くよりこれを利用したほうが素早くお前たちに恐怖を与えられるとひらめいたぼくは、魔方陣に書くべき事柄のうち欠けている部分を補い、そののろいをお前たちにかけるという効果の魔法を完成させた。ちゃんと、成功した際の跳ね返りがあって、ぼくの身に危険がある代わりに、媒介の宝石がひとつダメになった。それなのに!なぜお前たちには何もおきないんだアアアアアアッ!!!




 クリスティンは悲劇を演じる舞台俳優のように大仰に手で顔を覆い、ひざを折り、覆った手を天をつかむように力をこめて上へ伸ばし叫んだ。それから、べたりと前面から床に倒れた。

 案内すら呆然と立ち尽くし、しばらくして一同が我に返ったとき、


「危ないだろおおおおがっ!!!!!」


 ハユハユが弾丸のようにすっとんでいき、体を起こしていたクリスティンをもう一度床にぶち倒した。


「貴様ァ!魔法をなんだとおもっているゥ!!他人の魔方陣を簡単に扱うお前がおこがましいんじゃアアア!!」


 見た目は手のひらサイズのパステル紫の表面が細かい産毛でふさふさした中にちょこんとつぶらなおめめの可愛らしい生き物から、軍隊の鬼軍曹の声が発せられる。


「百歩ゆずって紙の再利用でもナァ!!単に表面を削るだけじゃあなく、しかるべき手順で浄化してから消さなきゃあならんことぐらい、たいそーな学校出たんなら習ってるだろうがァアア!!!」


 可愛いおててでぺしぺしぺし……とひっぱたく音も可愛らしいが、やっていることは、人間がやったら殺人レベルの拳ラッシュである。だれも彼?を止めようはしなかった。最後に全身でどついて、倒れたクリスティンの頭の上に着地したハユハユは、元のマスコット的な声でへふぅと一息ついた。

「解決して、よかったねぇえ。あ、そのあぶない紙はこいつに持たせて、一緒に専門家の下へいこうねえ。」



 三日間の留置で済んだクリスティンと、警察が呼んだ国際機関の魔法対策部署の人員四名と共に、一行は先日世話になった占い師の元をたずねることにした。不発らしいとはいえ、放って置いてはいけない。のろいが実現してはいけないから、しっかり解除と浄化を行い、ただの紙切れと同様に扱えるようにしてから魔方陣の紙を焼却するのだ。

あのセリフだけでこのエピソードを書き上げる時間の70%は使ってると思います。ウザイ!とかうわこいつメンドイ!とか思っていただけたらうれしいです。


クリスティンはよくいる「なぜか無駄に絡んでくる」キャラとして面白い奴に成長することを期待しています。

明日かあさって(8か9日)に次回&次の話を投稿予定です。

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