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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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大草原の大きな家 3

 朝、だれからともなく目を覚まし、窓を開けると、ひんやりした空気が部屋へ流れ込んでくる。しばらく温かい地方ばかりだったから、十分に冷たくて気持ちがしゃきっと引き締まる思いがする。


 フリューシャは台所と別にある給湯室で、当番で朝食を作っているシュピーツェと夏樹のために、ハーブティを淹れた。ミント系のすっとする葉だがそれほど口に刺激がない、ほどよいさわやかさを売りにしているブレンドだったか、そんなことを思いながら缶を開け、茶葉を茶こしに入れる。ポットは途中で売ってしまったので、備え付けのものを使う。


 食器は一五人ぶんそろっているが、棚の空き具合からして元は倍の人数分はあったのだろうと思わせられる。

 ポットも複数ある。東方風の朱色や紅と藍色の紋様が描かれたもの。高地の人が使う、冷めにくいように口が小さくなっている細い姿のもの。日本の急須に似た丸みを帯びた鉄器のもの。そして、今使っている、バラの仲間らしき花があしらわれた白い磁器。


 フリューシャの経験上、そのポットは三杯ずつ入れるとちょうどよい濃さのお茶が出る。先に三杯淹れ、あとの三杯がまだ部屋にいるテトグ、タリファ、ダージュの分だ。猫舌なタリファには先に別のカップに注いでから移して冷ます。ダージュは余分に蒸らしたのが好きなので、ちょっと置いてから入れる。


 何もない日は、夏樹とフリューシャはダージュに連れられて体力づくりだ。体をほぐしてから、走って庭を周回する。休憩を挟みながら、適当な距離を何回か走ったり、腕立て伏せなどのエクササイズをする。


 テトグは毛づくろいや趣味の盤上ゲーム。盤上ゲームにはいろいろ流行りがあるが、彼女は新しいものはあまりやらない。ルールがめんどくさいと一緒に遊んでくれる人に説明出来ないからいや、という理由らしい。


 シュピーツェはだいたい寝ている。いつでも休息をとり、いつでも動き出せるようにしなくてはならないから、と彼は言う。やっぱり傭兵でもやっていたのだろう、と誰も気にしないが、目をつぶっているだけだと寝ているのか起きているのかわからないのだけは困ると五人は感じていたりする。


 タリファは趣味と実益を兼ねた手芸作品作りだ。不器用は経験でカバーなのである。どうにも隠せないこともあるが、この町や北へ抜けた先で売れればそれでよい。


 昼の少し前、当番の夏樹とダージュが、昼食を作り始めようと台所に入ったときだった。入口の呼び鈴がからからと鳴らされた。この家は長く貸し家になっているので、客が来ることはあまりないはずだ。飛び出してからそれを思い出したダージュが、近所の人か何かだろうと思いつつ返事をして扉を開けると、このあたりの貴族の使いらしき男がいた。


 地球の燕尾服のような、いかにも礼装といった整ったぴったりした服は真っ黒で、独特の格好の襟元に紋章がついている。持ち主とともに近所にあいさつに回ったときに見たことがないものだ。それだけでなく、家を探す際に憶えた有名な家柄の紋章でもない。そして、家のあちこちに残る、元の持ち主の紋章でもない。


「私たちは旅の者です。貴方はどなたかの遣いでしょうか。」


 何も言わず突っ立っている礼服の男は、ダージュに答えた。


「わたくしは、この屋敷の真の主人たるアウリェートゥエ家から参りました。本日中に、退居していただきたい。」




 男が言うには、現在の家の持ち主は、アウリェートゥエ家から不当に何棟かの建物を奪ったらしい。どちらが正しいか判断できないダージュは、起きてきていたタリファたちも含め五人と一体全員を呼び、貸主に連絡したのだった。


 ぞろぞろやってきたアウリェートゥエ家の召使たちがてきぱきと昼食を作り上げ、野外にいつのまにか置かれた長すぎるテーブルに並べていくのを、六人と一体と家主は眺めることしかできずにいた。

 悠然と、アウリェートゥエ当主だという壮年の男が近づいて、席に着くと、男がフリューシャたちにも席に着くように促し、やっと席に着いた。ハユハユは席がなく、目のあいだにしわを作りながらシュピーツェの膝の上にいる。

次回は明日17日(月曜日)に投下します。

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