仲良くなる前は 1
僕は今後悔している。なんてくだらないことで喧嘩してしまったのだろう、と。
僕の名前はフリューシャ。長耳族の古くからの慣習である成人の儀の旅の途中。町や遺跡を回って長老に話を聞く為に旅をするんだ。旅を初めてまだようやく一年を迎えたばかりだ。
生まれた集落を出たあと、買い出しと最初の目的地を兼ねた街リャワを数日で出たとき、僕と二人の友人とリャワで出会ったドワーフ族のタリファの四人は、お金がなくて乗鳥も荷車も借りられず、歩いて大陸西岸の町のどれかに行かなくてはならなくなった。何か月もかけて小さな集落にたどり着いた僕たちは悩んだ。
僕たちは大陸の南北を分けている大海峡の向こう側へ行かなくてはいけない。成人の儀の目的地は大陸の最北西の付近に広がっているからね。海峡を挟んで南大陸・北大陸と呼ぶところがアーシェのアメリカ大陸に似ていると、アーシェから来た友達である夏樹が言っていた。アーシェの定義では、大陸は呼び名通りの二つの大陸とみなされるんだね。そうなると名前が必要になって、そのまま南と北って名前になるのかもしれないね。
大海峡を渡るには、大陸横断船の定期便に乗るか、海峡のそばの町まで行って船を出してもらう方法がある。定期便が出ている港町は南大陸最大の都市ハバステリーナのほかに、海エルフの港ミルルア、二十年くらいの最近にできたココーナの三か所。一番近いのはミルルアで、とりあえずそこまで行くことは、提案した友達ダージュと僕も、夏樹も、タリファも同意している。ただ、どうやって行くか、とても悩んだんだよね。
じっくり休んでから少し先の大きな港町ザールリェまで一気に行き船で向かうか、少し休みながら町や集落を辿ってそのまま街道を辿るか。
体力がなくて旅慣れてなく疲れ切った夏樹はとにかく休みたいといった。タリファはザールリェに嫌な思い出があるらしく、できればあの街には寄りたくないんだって。
ダージュはしばらく考えさせてくれと言って僕たちから離れた後、戻るなりすぐに二人がうるさいから僕が決めろと言い出した。
僕はどっちでもよかったし、南側だけどそこそこ大きい別の町から船で向かってもいいんじゃないかとも思った。もしくは、この集落の近くの町でお金を作って乗鳥を借りるとか、全然別の方法を考えてみてもいいんじゃないか。
そう思っていろいろ案を出したんだけど、ダージュとタリファにすごいダメ出しをされた。世間知らず、と言われた。僕は悲しかった。世間知らずなのは分かっているけど。
学校で先生に叱られたときのように、僕は泣き出してしまいたかった。
結局、ほかの旅人が用心棒を探していたところに入れてもらうことができたので、休みながらミルルアの手前の町まで乗鳥車で行けることになった。乗鳥に乗れない夏樹と合う鳥がいなかったタリファは車のほうへ。僕とダージュは鳥を使った。盗賊が出たという知らせがあって格安で鳥を借りられたし、たくさんの人数で集まったからにぎやかで楽しかった。夏樹以外のアーシェ人とも出会って、面白かった。
だけど、その後だった。
乗鳥をミルルアで返せることになって、僕とダージュはそのまま乗っていたし、タリファは交互に乗せてくれたら十分だと言うから、順番を決めて交代で乗ることに決めた。引いて乗る分には、鳥が少し大きくても大丈夫だし、夏樹も乗せていける。僕とタリファ、ダージュと夏樹で交互に乗ることに決めて、夏樹にまたがり方や引き方を教えていた時だった。
進め・止まれと方向転換は基本の合図だ。それを覚えないと引いて歩くことはできないんだよ。むりやり引っ張ったり頭を向けたりすると怒って暴れたり、乗ってる人を振り落としてしまうんだ。
夏樹に進めと止まれを教えたあと方向転換を教えている時に、僕が不注意でもう一頭の鳥にぶつかるような向きに方向を変えてしまった。鳥は怒って走り去ろうとし、早く止めなかったら夏樹を引きずってしまうところだった。
僕は夏樹と、その時鳥のそばにいたダージュに謝った。だけど、ダージュは休んでいる夏樹をにらんでぶつぶつと文句を言った。
「あいつも悪いだろ。リャワにいたときとか機会があったのに憶えなかったんだから」
「なんであんな奴なんだろうな。さっきのアーシェ人はあんなにうまく乗ってたのにな」
次回は明日9日(日曜日)に投下する予定です。