恐怖!代金をくれる宿 4
二日目の朝、早く起きる長耳族らしからぬ、ごく普通の起床時間に、フリューシャは目を覚ました。その時点で、五人と一体はまだ眠っていて、彼の動いたことによる音や振動で、皆目を覚ました。フリューシャは狭い窓にかかったしわしわのカーテンを開け、窓を開き、天候を確認すると、くるりとターンして扉を開けた。誰からともなく、布団をたたんで持ち上げ、外へ持ち出して、積み上がったゴミのなかのマシな部分を利用してシュピーツェとダージュが屋根に上がって、六枚の布団と一枚の座布団を並べた。
六人は頷きあうと、即昨日のような適当な服に着替えて台所へ向かった。ユイニンの祖母と母が仕込みをしていたが、六人は挨拶だけして土がむき出しの部分へ降りた。仕込みをしていたツボを別の場所へよけて保護した後は、部屋と同様に、モノを寄せていき、丁寧にはたきや箒をかけた。
台所は、水道が引かれた場所に流しとなる一部に穴の開いた大きな桶が置いてあるのと、その傍の壁にかまどがあった。入ってきたのと反対側の壁に、外へ向かう裏口があり、扉もガラスがないので、畑を通る小道が見えた。小さな古い型の電灯は昭和の日本のような黄色い灯りで、薄暗い台所を余計に寂しく感じさせた。
この世界では、都会以外灯りと通信端末(電話とファクシミリが一緒になったようなもの)くらいしか電気を使っていないので家事は重労働だ。それを多少楽にするはずの冷蔵庫は、周りに木箱が置かれて使用されている気配がない。というか、間違いなく何かがしまいっぱなしになっているに違いないのだ。
この世界の冷蔵庫は、電気の供給力の都合で、地球の電気のない時代の氷で冷やすタイプを多少改善した程度のものだ。氷が電気でできるというそれだけである。ちなみに、都会には仕組みは違うものの電気で冷やす冷蔵庫が存在していて、港の魚や果物の保存に大活躍なのだが、そもそも内陸のこの地方では海の魚を干物以外で食べる発想がないので誰も必要性を感じていないのだった。
「これは、ぜったい、あとだよ。」
夏樹が冷蔵庫を指さした。ちょうどいいから、寄せるときはそっちに固めてしまえ、とハユハユが言った。見える部分の床がきれいになり、掃き掃除の埃が落ち着いたところで、流しの掃除を仕上げて、シュピーツェとダージュと夏樹がユイニンたちも含めて朝食を作り、運んで行った。配膳が済むと、テトグとハユハユが外へつながる扉を開けて、開口一番叫んだ。
「あの布団はなんなの!?詰めなおしは高価だからぺったんこはしょーがないかなって思うけど、あの匂いと色とカビはだめ!!!もうだめ!!あたし許せない!!」
「解せぬ!布団は至福の使いであるというのに!!なんだ!あの心躍らない布団は!!」
「あんな安らげない布団でどーして休めるとおもうの?ていうかあなたたちかゆくないの?!」
ユイニンの弟だったか、男が一人ぽつりとつぶやく。
「別に。寝間着で体は覆うからできものはできないし」
テトグが人様の家であることを忘れ、だん、と勢いよく男のほうへ踏み出す。
「普通は!かぶれないし!食われないものなの!!衛生という言葉を、今からでいいから心にきざみこみなさい!!」
散々叫んだ猫人と波動生物は、ふう、と一息つくと、すっと静かに席についた。ここは椅子は使わず、食べる部屋だけ床が高くつくってあり、履き物を脱いで敷物に座布団などを置いて座って食べる。すとん、と座ったテトグは手を胸に置いて食べる前のおいのりをした。
「世界を生みしかみがみよ、今日の恵みに、かんしゃいたします。」
つられるようにフリューシャとダージュも集落に伝わる祈りの言葉を唱え、夏樹もぱんと手を合わせていただきますとあいさつした。タリファも軽く会釈して短い言葉を唱え、食べ始めた。
「さあ、まずは食うのだ!」
ハユハユが促し、ユイニンたちも食前の祈りをして食べ始めた。
次回はあす5日(水曜日)に投下します。
(・ω・)かゆいふとんは じごくへのしょうたいじょう。
昔からずっと古い布団を使っていましたが、7~8年くらい前にダニに食われて部屋をフローリングにした際に布団も新しくなりました。ぬいぐるみも泣く泣く半分お別れしました。しかしほんとダニに食われると長期戦になりますので布団はこまめに干してダニが表面に来ないようにするといいです。暗いときに活動するので、寝る前などに専用の掃除機で吸うのもよいと思います。