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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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言葉は大事なオマジナイ 3

 占い師は老齢で、もう千歳近くて目が見えていないが、客と、別の誰かが、自分に注目しているのは分かるのだとぶつぶつつぶやいた。


 シュピーツェが都会のそんなに裏でもない通りで魔方陣を拾ったことと、その相手らしき者に名指しで予告らしきものを受けたこと、相手は自分たちの仲間のエルフの本名さえつかんでいて、明らかに自分たちを狙っていることだけしか分からないことを伝えると、


「あんた、身に覚えがあるね?」


 占い師は言いながら占いのカードを混ぜた。タロットカードのように、様々なモチーフが描かれたカードで、組み合わせによって暗示されているものを読み取る、古めかしくて格式高いとされる方法だ。


「おれには自信がないが、たぶん、皆予測がついている」

「あたしにもわかる」


 入国してそのまま宿に入るまでの長時間町を観光していたときに、何度も突っかかってくる男がいたのだ。こっちは相手を知らないのに、相手は少なくとも入国前からこっちの動きを把握しているという、謎のストーカーカッコカリが存在するのだ。一週間以上付きまとわれた六人と一体は、ああ、こいつとは長い付き合いになるだろう、と振り切るのをあきらめたところだった。




 シュピーツェとテトグは占い師のカード捌きを見つめつつ、小声で話し合った。それから、窓などから死角になる場所に注意しながらハユハユと電信端末と、短いメモを投げた。ハユハユがメモを見ながら端末に並ぶボタンをぽちぽちと押し、メッセージを送り、端末を抱きしめて頷いたのを確認したシュピーツェは、テトグを店に置いてそっと店外に出た。


 暖簾のように下がる、占い屋のしるしを染め抜いた布をくぐったシュピーツェを、離れた屋根の上から見つめる男がいた。

 本当はあの獣人女を先につぶしたかったがまあいいや、と声に出さず口だけ動かしたその男は、だぶだぶの黒いケープと中に備えた魔道書に魔力補助のための宝石をあしらった指輪を両手で五つもはめた、昔ながらの魔術師スタイルである。


 占い師のように現代の魔法使いとも違っていて、町の中で目立ちそうなものだが、男は魔法で姿を見えなくしていた。はじめから彼を知っていて探す人でないと見えない魔法なので、シュピーツェからももちろん見えない。男が見ている前でシュピーツェは無防備に姿を見せ、何事もないように店内に戻った。男は余裕を感じて口の端が上がってしまう。


 彼は忘れていた。確かに、シュピーツェからは見えない。しかし。


 占い師からは魔力が視えているのだ。カードの暗示を一通り述べた占い師は丁寧にカードを仕舞い始めた。


「どこにいるか、わかるかね?」


 シュピーツェたちが頷き、暗示について自分の解釈と行動を述べる。占い師は満足そうにしわくちゃのかおをさらに歪めて笑った。


「やってみなされ。」




 テトグがハユハユをくっつけてとんとんと身軽に民家の屋根に上がって、特定の建物を目指した。男はうろたえ、さっきまでの余裕は消え去った。見えていたら奇襲にならないし、だから余計に手間もかかる。


「何で、見えてるんだよオ!!」


 男の叫び声は、かすかにテトグに届く。通称猫人と呼ばれる彼女の人種は耳や鼻が鋭い。音が聞こえればテトグも自信を持って目的地へ向かえる。彼女の足は速まった。くっついているハユハユも、もう方向の指示をしない。じっと、魔力の波動を捕らえようと集中している。


 やがて、平屋の中にぽつっとある三階建ての屋根にあがったテトグとハユハユは、魔法が解けて姿もあらわな男をあっさりと見つけた。そのまま相手に向かって攻撃を仕掛ける。占い屋で爪に塗っておいた薬のおかげで、そのまま引っかいても多少の防御魔法ごと引き裂ける。


「やっぱりおまえ弱いーーーー!!!」


 テトグが楽しそうにじゃれついてるようにしか見えない。ハユハユは彼女から離れて、あの嫌な魔法の痕跡を探った。魔力には指紋のように術者の違いを読み取れる要素がある。読み取る側にも波動に関する高度な技術や才能が必要だがハユハユは波動生物なので最初から備わっている能力なのであった。


「やばいバレるちくしょーーーー!!!」




 男は、以前にも何度か六人と同じ町に滞在していた。そして現地の荒事を華麗に解決して名声を上げようと思っては、六人のうちの誰かに先を越されてしまうのだ。


 たちの悪いことに、男は、それなりに才能に恵まれちやほやされて育った上にめちゃくちゃ思想が偏って育てられてきた。

 あいつらは、自分の手柄を横取りする上に高貴な長耳族を担ぎ上げて好き勝手する悪い下等種族だ!と考え、いつのまにか六人を追いかけるようになってしまった、彼らの知らぬ間に生まれた腐れ縁であった。もちろん六人と一体は理由を察することすらまだなかった。


 痕跡を探り終わったハユハユがテトグを止めたときには、男はケープも中に着ていた服もズタズタで、露出した顔や手足も爪あとがきれいに三本並んでいた。

 手足を縛り、口に猿轡をかませ、指輪やケープなど補助になるものを全部引っぺがして男を抱き上げたテトグは、男の上に乗るようハユハユに声をかけて、占い屋の店先へ戻り、シュピーツェと合流した。

 二人と一体は警察組織に男を預けた。証拠として引っぺがしたケープや指輪や魔道書などをひとつを除いて全て渡した。




 夕方、宿で六人集まって食事をとりつつ、シュピーツェは男について話をした。


「アイツだった。入国してすぐに因縁つけてきた妙な貴族の坊ちゃん」

「早いと三日くらいで理由だけは吐かせるからって警官が言ってたー」

次回は水曜日~金曜日に投稿します。

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