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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
39/171

恐怖!代金をくれる宿 3

 廊下を行きながら、六人は次の段階を考える。床のでろでろの敷物をはがして、木の床を拭き上げることだ。床をきれいにしないと寝床がない。宿と名乗る建物にきたのだから、ちゃんとした布団で寝たいものである。


 床を終えて余裕があれば、せっかく無事な箪笥を拭いてやろう、とダージュとシュピーツェが話し、夏樹も、過去の自分の家の箪笥の話をしたりと、食事後すぐから、六人は勢いが止まらない。前の大きな街で手荷物を売ったりアルバイトをした分の収入が入るまで最短で五日間はここで過ごすのだから、せめて最低限の快適さを、できるだけ早く手に入れたいのだ。


 このあたりの地域は、収納は昭和の日本の家庭にありそうなずっしりした木のタンスである。人があまり増減しないし、大きな災害が起こるのは何千年に一度あるかどうかで、何世代も移動したりしない地方ならではである。

 家族にひとつとか二つとか、箪笥があって、そこに全ての持ち物をしまう、そういう文化だ。しかし、文明が進み持ち物が増えると、ひとり一つでいいくらいになり、ひとりでもあふれるくらいになってしまったわけだ。日本と同じようなものである。


 夏樹だって、日本にいたころは、当然自分の部屋にいっぱいの所有物があった。箪笥に衣服が満載で、小学校に入ってから引っ越しで近所の子にあげるまで、学習机を使っていて棚や引き出しは教科書やノートなどの学校の用具や図鑑でいっぱいだった。

 ほかに、夏樹の場合はゲーム機やおもちゃがあったし、よその子なら例えばVR機械やそれに接続できるパソコンがあってもっと場所をとっただろう。


 と、途中に台所の扉の前を通った。ちょうど話が途切れたフリューシャと夏樹は、開いていた扉から、中をのぞいた。


「わぁああ、あ、むぐっ。」


 叫びかけて、自ら口をふさぐ。すぐに四人に声をかけた。声をあげないように、と念押しされつつ四人も扉の前に立ち、二人のように叫びかけて口をふさぐか、あきれ果てて何も言えなくなってしまった。


「明日の昼からは、外で食べよう。朝は、残りの携帯食料を、庭先で。」


 部屋に戻る前に、食事は外でとると六人が提案すると、ユイニンの妻と母が実に残念だという顔をした。それでも、六人と一体はあの惨状を頭に浮かべながら、必死に主張した。滞在が長引いてもいいように近所の散策をしたいと言い張って、何とかその場を収めた。


 部屋に戻った六人は、何となくおなかを気にした。そして、誰からともなく、外いこっか、と言い出し、ハユハユが黙って六人の背中を押して送り出した。




 少し歩いたところに、小さな食事処があるのを見つけ、六人は入っていった。はじめは、よそ者と気づいて眉をひそめた客や店主も、話す内容からあの宿から来たとわかると、急に雰囲気が変わった。その空気の変化に、六人の気分が下がる。


 頼んだうどん状の麺に、全員分、なぜか追加用の具が乗っている。気づいて何か言おうとしたタリファに、運んできた店員が声をかけた。


「……いいんだ。俺や大将からの、見舞いだ。お代はそのままでいい。」


 近くの席の客も、通るたびに、微妙な沈黙をはさみながら話しかけてくる。


「あそこにとまるのかい?…………気を付けるんだよ」

「頑張ったんだねえ……大将、俺とこいつらに、つまみを追加してくれ……」


 妙に心配やねぎらいの言葉をもらい、気持ちはズーンと落ち込むばかりだ。大抵のことを平気で過ごしてきたフリューシャも陥落した。食べ終わって、ほう、とため息をつくと、もう六人とも何もしゃべらず、最後に水を飲み干してあの部屋に戻った。




 戻った部屋は、悪夢のままであった。それでも、寝るまでに何とか敷物をはがして廊下から外へ放り出し、何とか床を拭き上げて、布団を入れてもらった。

 やはり、布団も魔物であった。ハユハユとダージュが光の魔法を放って『消毒』した。シーツも使わず、手持ちの布を使用した。

 疲れ切った六人は、いつもより早い時間にもかかわらず、即眠りについた。

次回はあす4日(火曜日)に投稿します。

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