恐怖!代金をくれる宿 2
部屋の広さはおそらく十分であるが、今はまったく意味をなしていない。積み上がったモノの山々。その山からくずれ落ちたり適当に放られたモノ。脱いでそのまま適当にかけられた服の数々、何に使うのかわからない謎の道具や、いい加減に積まれた崩れかけの木の箱たち。その奥に見え隠れする、壁際に置かれていると思われる本来は高級そうな木目の見える箪笥。六人はしばし言葉を失った。
「今まで、何組くらいの人が、泊まっていかれましたか?」
フリューシャが何とか声を絞り出すと、ユイニンはにこやかな笑顔を保ったまま、つっかえながら話した。
「三年前に宿を始めましてですね、それから今まで、ふたくみ……いえ、三組のお客様を、お迎えしました。ああ、でも、お迎えしたと、いいましてもですね、皆さま、お部屋を見ていかれて、その日に、お帰りになりまして、この部屋は、使われておりません。」
だよね、やっぱり。テトグが遠慮なく口に出したがユイニンはまったく意に介しなかった。
六人は、町に入る時、夕刻に着くことを想定し、泊まる予定を立てていた。だから乗鳥は返してしまったので今からほかの宿を見に行くには、歩かなくてはいけない。まだ予定時刻より早く明るい時間であるとはいえ、次の町まで行く余裕はない。改めて乗鳥や馬車などを借りるお金がないからだ。あと三日はこの町から動けない。次の町や国に、二~三段の等級の宿でそれなり気に入るところがあると確実に言えるなら別だが、事前に宿の存在がわかりそうなのは観光地付近だけでありもちろんお高い。
「やるしか、ないね」
フリューシャの諦めきった顔を見ながら、ダージュがため息をついた。夏樹はこの部屋に泊まるとわかるとすぐに腰を下ろして、モノがあるせいで痛くて立ち上がった。
ダージュとタリファとシュピーツェがユイニンに声をかけ、泊まるためにこれだけのものをすぐに用意してほしい、とリストを手渡した。それから六人は、上着を脱いで、代わりにあたりに転がっている適当な服を着た。ハユハユを前が見えるようにバンダナで包み、屋外作業用の丈夫な織りの手袋をはめ、転がっているものを出来る限り端へ向かって寄せ、何とか肩を寄せて座るスペースを作った。
少し話し合い、ユイニンの妻か姉妹らしき女性が持ってきたあまり上手く味が出ていないお茶でのどを潤したあと、六人は口と鼻をバンダナで覆って作業を始めた。
廊下には、アーシャから伝わった「だんぼーる」という紙で出来た箱が平らにたたまれて壁にもたせ掛けてあり、たくさんあって、廊下がふさがっている。
それと、腐っていないちゃんとした木の箱がいくつか。それを見ると、やっぱり木自体の良さや細工の丁寧さなどが分かり、なおさら、崩れかけの積まれた箱たちが哀れに見える。
バンダナで顔以外隠れたハユハユがフリューシャの頭の上で作業開始の声を張り上げると、夏樹が組み立てただんぼーるに手あたり次第モノを突っ込んでは、一角に固めていく。箪笥に入っていないものはすべて、だんぼーるに突っ込むつもりだ。
真夏には遠いが、動けば汗だくになる。思い思いに、適当に先の微妙に水っぽいお茶を飲みながら、どんどんだんぼーるをつんでいく。だんぼーるを作っている紙は、書いたり包んだりなどに使われる紙に適さない草や質が達しなかったものなどを利用して作られているので逆に貴重かもしれない。
ひたすら、壁の箪笥以外のものを詰め、終わったときにはユイニンが夕食の準備ができたと呼びに来た。
さすがにそのままでは食べられない、と風呂場を借りて汗を軽く流し、とりあえず六人はモノで狭い廊下を進んでいき、食事をとった。ちなみに、食事をとっている部屋ひとつと、トイレと風呂だけは、なぜか、掃除が行き届いていた。
次回は3日(月曜日)に投下する予定です。
この話を組み立てかけたころに母親が用事で行った親戚の家がゴミ屋敷寸前だったので写真とか頼めばよかったと後悔しています。母親の用事はほぼ片づけだったそうです。私は未就学児だったころに一度行っただけなのでどんなところか記憶がありませんが、もちろん、そのころには普通の家だったはずです。