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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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恐怖!代金をくれる宿 1

 六人と一体は、観光地も何もない小さな町で路銀が尽きてしまった。小さな役場の建物に立ち寄って、宿はないかと尋ねると、よその人が泊まれる宿は五軒あると教えてもらうことができた。


 この世界では、宿にランク分けがされている。キャンプ場のような、場所とかまどだけあって全て自分でまかなうところが無印。最高級の、国王や大統領のような要人や貴族や金持ちの御用達、アーシェでいう五つ星!なところが十段。

 その間が一~九段に分かれている。多いのは四~五段、観光地のちょっと上のホテルなら六~七段。それ以上は、観光地や西方の大都会を除けば国に一つか二つあるかどうかという超高級ホテルだ。

 もちろん一行はそんなとこに泊まることはない。宿側のミスで空室がなくて半額保証付きで八段の高級ホテルに代わりに泊まる羽目になったことはあるが、六人にとっては高級すぎて気分的な問題で居心地が悪かった。節約もあって、余裕があっても三段くらいの宿に泊まることが多いのであった。




 教えてもらった宿は四つが二段。チラシを見せてもらう。値段が安く、サービスは最低限といったところか。そのうち一か所は民家の一部を利用する民宿で、そこの家族がどんな人々か分からないのは少し不安だ。


 野宿やテントよりはましだけど、ビジネスホテルやラブホテルで泊まるようなものか……と夏樹は苦笑している。いや、彼はどちらも利用したことはないのだが。


 ただひとつ、一段だという宿が、六人は気になった。とくに、お金を預かるタリファ&ダージュはひときわ異彩を放つ手作り感あふれるチラシデザインと、ある記述に目を奪われた。


『少々の作業をお手伝いいただいた方には、宿代を返金し、作業内容によってはお礼を差し上げます。』


 結局、間取りを見て六人で一部屋に入れるのがそこしかなかったのもあり、六人はその怪しげなチラシの宿に泊まることにした。余裕のある時やホテル側に事情があれば男女で別れるがそれ以外は基本一部屋しかとらないことにしている。お金がないときはなおさらである。




 怪しいのはわかりきっている、と警戒しつつ宿の住所へ向かうと、六人の前にあるのは、一階部分に小さな店があるだけならまだしも奇妙な格好にあちこち増設された民家があった。


 店舗部分はさびれきっているし、住居部分を見ると真昼なのに窓には冬のカーテンが閉められていて、そこに何かおかれているのか、カーテンがあちこち歪んでいるのが分かる。

 もちろん、店舗部分は宿屋ではなく雑貨屋だ。都会で大量生産された駄菓子や大企業のスナック菓子、広く吸われている煙草の銘柄がいくつかと、ラップや敷き紙などのやっと流通し始めた生活用品が置かれているのが見えた。


 店舗部分に入って商品を見て出てくると、店舗担当だという男が慌てて店に立った。今は買い物に来たのではないと傍にいたシュピーツェが断ると、男は挨拶も何もなく、宿はお決まりですか、と尋ねた。唐突過ぎて、露骨とかそういうことを思う暇もない。タリファがずいと男の前に進み出た。男は半歩後ろに下がった。彼女の気迫もあるが、単に男がドワーフ族に接近したことがないだけである。


「そうなんだよ。あたしたちは、宿を見に来たんだ。ちょいと、見せておくれよ。」


 男は、名前をユイニンと名乗った。誰か尋ねてもいないのに、先祖は東方の国々の一つから、現在の首都となっている付近にあったシュエという国に攻め込まれて逃げたのだと話した。東方にあこがれていていつか先祖の土地へ行くのだとか、東方語を勉強中だとか、しゃべりながらユイニンは住居部分へ回り込み、二つ扉が並んだ先へ六人を案内した。

 そして誰かの荷物の中から飛び出したハユハユに驚いて腰を抜かした。


 ユイニンがなんとか起き上がり宿の入り口という扉を開いて、どうぞ、といった。


 が、六人はしばらく動けなかった。とくにタリファとダージュ、夏樹は直観を抱き、そしてその通り、そこに存在するのは、店舗部分との境目までみっしりとつまったゴミ屋敷だった。この世界ではまだ作られていないからプラスチックがないくらいで、夏樹が日本で見ていたワイドショーなんかの映像と変わらない。


 六人がすることになった作業とは、まず自分たちの泊まる部屋となる、一番マシな(とユイニン以下住人たちが言う)部屋の掃除だった。

次回はあす30日金曜日に投下します。

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