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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
31/171

吸血鬼なんているわけがない 6

 四人の前には、下で見た部屋よりもはるかに豪華な調度品で飾られた内装と、美しいレースカーテンがかかった天蓋付きの寝台があって、そこに腰かけてくつろぐネグリジェ姿の女の子がいます。


 女の子は絵画の少女とよく似ておりました。なにより、あの何物にも代えがたい金のひとみ。不健康そうな青白い顔色と、青白く細い手。体はあどけない顔に似合う平坦さ。枝のように細い足は黒いタイツで覆われておりました。銀に近い薄い金の髪はおそらく腰あたりまではありそうに長く、シーツの上であちこち渦巻いております。

 それらがやや弱めの灯りで照らされて、大人の女性とは違う妖艶さをかもしだしておりました。


 不思議なのは少女の雰囲気だけではありません。消えている廊下のものより小さなシャンデリアが、灯りがともっているだけでずっと細かい細工の高価な品に見えます。人がいなくなって長いこの村に電気が通っているはずはありません。


 戦乱で施設を壊されなくても、そのあとの国勢調査で無人が確認されればもととなる装置が取り外されてしまいます。装置が生きていれば、村の入り口の詰め所や館の電灯をつけることもできるはずですが、入るときに確認はしています。

 魔法で電気を細かく調節するのは大変難しいことですし、地球上と違って、電池やバッテリーの類は都会でようやく使われ始めたばかりで、やっと電気が通ったばかりの時代にしかなかった村にしまい込んであったりはしません。


(相当の手練れとみた。警戒を怠るな!)


 シュピーツェが手で注意を促すサインを送り、四人と一体が身構えますと、少女は大げさに笑いながら手を振りました。すると案内してくれたあのゴーレムがすうっと空気に溶けるように消えました。


「敵意はないといっただろう。構えを解きなさい。私はこの館の主として、お前たちの訪問にすでに許可を出したのだ。」


 女の子は、構えを解きつつも険しい表情を崩さない四人に言いました。


「私はこの館の本来の主、リーゼリンディア家当主クリスタ・ヒルデ・リーゼリンディアである。父は先々々代当主リーダバステ・リーゼリンディア。母は『放浪の吸血鬼』ヒルデ・ヒルダガルデ・アーティア。今はクリスタと呼ぶことを許そう。」


 少女の名前を呪文や朗読のように何度か口にしながら、フリューシャとダージュとテトグは名前の響きと尊大さからクリスティンを思い出しかけて、ふるふると首を激しく振って考えを打ち消すのでした。




 クリスタに言われて、いつのまにか用意された椅子に座った四人は、疑問や疑惑でいっぱいでした。一番疑り深くないフリューシャでさえ、彼女が本当に吸血鬼だったらすごいなぁ、程度にしか思っていません。


「僕の集落じゃだれも信じてなくて、おとぎ話の世界だよ」


 このシェーリーヤ世界の吸血鬼は、人間の突然変異とも多種族との混血とも、あるいは、神々の失敗作とも言われています。そして、ある意味、獣人やゴブリンのような亜人種どころか、謎に包まれた南方人並みに差別される者たちです。


 そして、個体数が極端に少なく、長命種以上に子が少ないので、もう絶滅していてもおかしくないと言う人もいるほどに、珍しい存在です。長命種や波動生物のように長く生きる者たちでも、知っていることは書物の中だけのことです。出会った人なんていうのは、見間違いか、相手を貶めたいか、でっちあげのいずれかと思って間違いない、とものの本には書かれているくらいです。


 地球の怪奇小説のように、吸血鬼仲間や死体から作った手下などを引き連れることはなく、血を吸われた他種族が吸血鬼になったり催眠にかかったりすることはごく稀なことです。


 それでも、落ちぶれた貴族などに取り入って、その一族を食料にするだとか、人間の食べ物は酒と生肉しか食べられないだとか、真贋を確かめられない分恐ろしい話や記録が残されているのです。寿命も、どんなに短くても百年生きるとか、長命種のように何百年生き残るだとか、これまた憶測や想像でしかないことばかり書かれているのでした。


「私も初めは、荒唐無稽なおとぎ話を信じていたわ。母もよく、自分は五百年前にいた国の貴族の若い男を食らっただとか、どこそこの国王の血は美味だったとか、陽の光に当たると燃え上って死ぬだとか、幼い私に言い聞かせていたものよ。

 まあ、母の男遍歴なんか興味ないし、化粧とケープと日傘があれば焼け死ぬどころか、真昼でも軽いやけどで済んでいるわ。


 ただ、食事は本当に不便ね。それ以外のものも食べられるけれど、やっぱり動物の血と肉が美味しいと感じるし、欲が満たされるのよ。」


 クリスタはフリューシャやダージュが話す書物の記述にちょっぴり呆れながら、楽しそうにしゃべりました。

 思わず本題を忘れそうになるフリューシャたちを気遣っているのかからかっているのか、話題が途切れたところで、彼女は、彼らが捜している『はりつけ事件の犯人』は自分だろう、と唐突に言い出しました。四人の注目が一気にクリスタへと向かいました。

次回は明日2日金曜日に投下します。

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