言葉は大事なオマジナイ 2
六人が見つけたのは、羊皮紙のように皮を使った筆記用具で、魔方陣のような文様と、周りに呪文のように文字が書き散らしてあった。六人の誰も読めない。ぽふぽふと六人の頭をはねる円い奴・波動生物にしては人間の文化や社会を知るハユハユも、見たことのないものだという。
持ち込まれた製紙技術に合う植物が紙の草と呼ばれ大量につくられることにはなっているが、皮紙はいまだ広く使われていて、年代や地域を特定するのは、専門家が鑑定しなければ難しい。
「ただねぇ、いやな波動するよこれ」
ハユハユは紙をぱっと手放すと、頭から肩に降りた。波動生物という呼び名どおり、彼らには様々な波動がわかる。
世界は分かっているだけで七つの波動から出来ていることになっているが、いくつかは人間にようやく観測されたが残りは存在するかどうかすら怪しいものもある。
ハユハユが感じていたのは、感情などの波動『思念波』で、少し前まで五百年以上のあいだ公には禁止されていた魔法魔術が使用された証のひとつだ。
「いやーな魔法を使った奴がいるってぇだけは、頭に置いといてくれな」
ハユハユはというか、波動生物は、意図的に嘘を言うことはない。六人は単なる落し物として届けてはおくものの、自分たちでも調べてみることにした。
この世界の魔法は大きく分けて二つの流派がある。ひとつは思念や物理的な波動に干渉して、炎や水で攻撃するとか、灯りで照らすなどといった魔法らしい効果をもたらすものだ。魔法とだけ言った場合はこちらを指すと思ってよい。
例外的に長耳族が伝統的に生活や旅に必要な幾つかの魔法の使用を許されているので、長耳族の多い町へ行けば魔法理論の本を自由に読める。載っているのは所詮簡単な灯りのともし方や、少量の水を作り出す方法くらいだ。
たとえば炎を起こす魔法は、暴発の危険をかんがみて、ある程度魔法を制御できる者にだけ教えられるように、教本なども置かれていない。まして生活に必要のない威力や効力の魔法に関する本は魔法研究のための専門の図書館にしかない。
心を操るとか、何か不快なものを発生させるなど、直接人を害する魔法に関する記述は、魔法の研究をする人しか扱えない禁書にしか載っていない。
いずれにしても、魔法が使われると、様々な波動を動かすため物理的あるいは波動的な痕跡が残り、それなりの魔法が使える者なら誰でも、そこで魔法が使われたことを理解できる。
ハユハユが感じ取った波動の内容から、先の魔方陣の効果として該当すると考えられるのは、痕跡が小さく目立たない、なおかつ相手を憎んで使うような魔法ということになる。
「歩いていたら突然その人の頭上にバケツが落ちてきて、びしょぬれになるとか?」
ダージュが言い出すが、そんな効果なら、実際に自分でバケツを持って追いかけて水をかけたほうが圧倒的に手間要らずで後片付けも楽だ。余分な法令違反も犯さなくて済む。
「しかしねえ、そんな簡単なものじゃないと思うんだねえわしは。」
図書館を出た六人があれこれ言う中でハユハユはうなった。
「わしが感じたのはねぇ、こわいとか、おびえとか、そういうものだったんだなー」
閉館と夕食のために宿に戻った六人と一体は、翌朝すぐに、宿屋の主人にたたき起こされた。そのまま宿屋の主人に連れられて、宿屋の玄関先の壁を見た。
フリューリェイシャ・リーフェイイェンリャ
ナツキ・アンドウ
ダージュ・リン・メイジェンリーンシャ
タリファ・ギーフ
名前が赤紫の果実をつぶしたような汁で書かれている。フリューシャは書類など全てをフリューシャで通していて長いフルネームを知っている人は両親と名付け親である集落付きの魔術師しか居ないし、ダージュも隠していたわけではないが同様に全てリン・ダージュと東方式の名前を使ってきている。
「あんたたち、何か変なものに狙われたりしてる?
それならもう泊められない。かわいそうだけど出て行ってくれ」
宿屋の主人に、誰も言い返さなかった。政治的な何かとか砂漠の暗殺者に狙われるとか、お金がないとか、一晩泊まれるだけでも運がいいという思いはすでに経験済みだ。
今回思い当たるのは、あの魔方陣だ。仕事のないテトグと休みになっているシュピーツェはハユハユを手に、首都の外縁部にある、長耳族が比較的集まっている地域の占い屋を目指した。
馬に似た四つ足の動物四頭と一頭の大きな鳥に引かれた車が、整備された平らな道をいくつも走っている。そんな乗り合いの車のひとつを呼び止めて行き先を告げると、他の客の目的地も含めて一時間ほどで目的の占い屋の近くに下ろされた。
亜人種のテトグが目立ってしまうといけないので変装として近隣の人に近い服装をしているにも関わらず、妙に視線を感じたシュピーツェとハユハユは目線を交し合い、あえて目的の占い屋に堂々と入って、占い屋に視線のことを打ち明けた。
次回は明日4日月曜日の予定です。