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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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吸血鬼なんているわけがない 4

暑さが多少ましになってきましたがまだまだ要注意です。皆様も体調にはお気をつけて。

 突然の矢の雨に走り出す四人を見て、矢の撃たれる先を目で追おうとしたタリファでしたが、二か所以上あるようで追いきれませんでした。ただ、そのうちの一か所は屋敷の二階の窓のどれかだということだけ、追うことができました。

 矢は飛んでくる場所にある程度範囲がありそうで、自分たちにも飛んでくると思った彼女は、そばにいる夏樹と案内人に、少し下がるようにと手で合図しました。生垣だった、伸び放題の低木の陰に身を隠すと、矢の範囲から外れたことが分かり、三人は少しだけほっとしながら、四人を心配するのでした。


~~~~~


 その扉は予想通り使用人用の裏口だったようです。小さな土間と、靴の手入れ道具の入った引き出しと、壁には上着をかけるためのハンガーがいくつか掛かった作り付けのクローゼット、そして、その小さな空間から屋敷に入る入口がありました。

 入口の扉は外の扉のように外れたり壊れたりしておらず、ただ、蹴られたような足の跡が残っていました。鍵もかかっておらず、テトグが中のにおいを少し嗅いで、気配を探ってからそっと中へ入ると、季節よりもひんやりした空気が四人を迎えるのでした。まるで、冷たい風が吹き付ける森に置き去りにされたようで、不自然でした。


 不自然といえば、踏み込んだ廊下からおかしいのです。人がいなくなってから時間を経てぼろぼろになっているはずなのに、埃やちりが落ちていることもなく、美しい文様の、砂漠の民の織物の長い絨毯が敷かれています。

 手持ちの灯りをかざすと、見える限り、絨毯の毛足の長い部分の毛羽立ちの向きさえそろっていて、不気味です。


 そんな廊下が一本あり、壁には入ってきたものを除いて美しい扉が五つ、階段、さらに扉が五つ。もう一方の壁にはところどころに普及したての頃の古い型の電灯が、暗いまま並んでいて、間には風景や静物を描いた絵画が飾られています。


 歩いていても、魔法の痕跡を時々感じるわりに、先の矢の雨のような仕掛けも何もなく、ハユハユも、上の階や部屋には何かいるかもしれないと感じ取りつつも、廊下では魔法の痕跡のほかに気をひかれるようなものはありませんでした。


 しかし、階段を上がろうとすると、いつの間にいたのか、石と土でできたゴーレムがズシン、と重い足音を立てながら近づいてきて、腕を大きく振って殴りかかってきます。足音はすごいのに、階段には足跡すらありません。階段を慌てて降りるとすーっとゴーレムの姿は消えました。


「小さいころの絵本でしか見たことないよ、ゴーレムなんて! どうなってるんだろう。」


 フリューシャは怖さ半分興味半分でドキドキしながら言いました。


 ゴーレムは魔法で作った人形です。石や土に、偽物の、一時的ないのちを与えて作ります。簡単な命令をいくつか覚えこませることができ、ロボットや奴隷のように働かせることができますので、簡単な作業をさせたり、丈夫さを生かして魔法使いの身を守ったりするといった使い道がされます。


 一万年以上昔の、長耳族とドラゴンの戦争の頃には盛んに研究が行われて、様々なタイプが戦線に投入されていましたが、魔力の消費が激しく、素養がある人でも少しの失敗で暴走して周りが大変な目にあうことなどから、平和になって以降は禁断の研究として封印されてしまいました。

 世界でも長耳族の長老格数人しか、詳しいやりかたの魔導書を持っている人はいませんし、長老たちは決してその書を開きませんから、滅びたも同然です。おそらく、今ゴーレムなどを操れる人は世界で数人いるかどうかでしょう。


 四人と一体は、どうしたらいいのかなんて見当もつきません。絵本や物語の勇者のような立派な剣や魔法の矢じりだとか、伝説の盾なんて四人でなくても誰も持っていないのですから。


 数分経ってからもう一度階段を上ると、数段上ったところでまたゴーレムやほかの魔法でつくられた不気味な見た目のコウモリやネズミがすうっと現れて迫ってくるので、四人は上がるのをいったん諦めて、先に一階の部屋を順に見ていくことにしました。


 扉を開けて部屋をのぞくと、どの部屋も、ホテルの部屋のようにベッドメイクがされているただの客室でした。家具の配置も、カーテンやシーツなどに使ってある布地も、何もかも同じです。目を引くのは、外に向かって大きな窓。そして、かかっている美しい織物のカーテン。

 目を移すと作り付けの小さな机と、それに合わせて作られたのだろう椅子があります。もしベッドの上に布団と枕があったら、そのまま泊まれてしまいそうです。


 ただ、一つの部屋だけ、机の上に違いがありました。書きかけの皮紙と白紙が何枚かありますが、使われている文字らしきものは、だれも見たことがなく、手掛かりになりそうにありません。その横に、型が時代遅れの女性用の服が一枚伸ばした状態で置かれていて、誰かがいることは間違いなさそうです。一体誰なのでしょう?


「本当に、吸血鬼がずっと住み着いてるのかなあ。それとも、誰にも知られていないけどすごく術にたけた魔法使いとかかな。」


「確かめるには、どうにかして上へあがらないと、何にもならんな。もしくは、一度戻って武器を用意するか、だ。」

次回は明日30日火曜日に投稿します。

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