吸血鬼なんているわけがない 3
一歩ずつ、忍び足で入っていったテトグ、フリューシャ、ダージュ、シュピーツェは、進路をふさぐ庭園の低木を迂回して、途中のオブジェに身を隠しました。ダージュが痕跡を探ると同時に、よく観察すると、低木やオブジェのところどころに血や草木の液が飛び散ったあとがあることが分かりました。
テトグがそっとその一つに近づいて、血液と液を見たり触れたりして、血液は人間のもので、液は庭園の低木が折れたり削れたりして飛んだりしみたりしたものだろうといいました。さすがに、何年もたっていて、いつ頃のものかまでは判別できないということを伝えると、シュピーツェとハユハユが十分だ、と彼女をほめました。
それから、ダージュが魔法の痕跡の結果を出すまで、数分待ちました。あたりを警戒していますが、何もありません。待ってみましたが、痕跡はあるものの、よくわからなかったので、花壇だったであろう、何か囲われた場所を通ろうと、通る前に魔法の痕跡を調べ始めた時でした。
花壇のほうへ、魔法具の宝石を手にしたダージュが一歩前に進んだところで、威嚇するかのように、次の歩を進めるちょうどその位置に、短い矢が刺さったのです。
「誰かいる!」
「わからんがとにかくよけるのが先だ!」
さく、さく、さく、と一拍ごとに矢じりが列を作ります。建物内からならここは打てないだろう、と屋敷の壁にぴったり張り付きますが、そのまま列が続いていきます。
「壁に沿って走れ!」
壁に沿って建物を回り込むように走り、山側、つまり屋敷の裏側に回ってしばらくすると、ようやく、矢が飛んでこないことが分かりました。
「走ってる間はわからないけど、あのあたり、魔法の痕跡だらけだ。罠でも仕掛けてあるんじゃないか?」
ダージュが嫌そうに捜索の結果を伝えると、テトグがありそうだ、と頷きました。
「このあたりはしないけど、さっきのあたりは、感覚を狂わせる匂いがする。お香とか、草の汁とかそういうのがたーくさん、やってあるっぽい。
その前の血のところでも少しはあったけどさ、比べられないくらい、くさいんだよ。今も耳と鼻がかゆいよー。」
話をしていても攻撃はなく、落ち着いたところで、四人は建物と庭を見ました。見た目は表側よりややさびれているように見え、いくつか扉や窓が壊れているのが分かりました。屋敷の建物から一メートルより少ないくらいの幅で土がむき出しになっており、建物と平行にテトグの身長より少し低いくらいの石組みが続いています。石は同じくらいの大きさの直方体に加工されて積み上げられているようでした。
よく見ると、石組みは幾重にも山のほうへ続いていました。まるで、迷路を横から見たように、それぞれ違う、あるいは同じ個所が途切れていて、本当に、入っていったら迷路のように進まなくてはいけないのではないかという気になるのでした。
四人は、裏口のような扉を見つけ、外れかけの扉を丁寧に外しました。そこから屋敷の中へ、入っていきました。
次回は29日月曜日に投下します