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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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吸血鬼なんているわけがない 2

 森の中の村は、小さなものだったようです。道路の舗装をはがしたり、あとから剥がれたと思わしき道は、麓近くから辿っている一本のわだちだけなのです。

 たまに分かれていく道を見つけても、その道が舗装されていたとか整備されていた様子は見られません。道によっては草や木で覆われて、わからなくなってしまっているのです。逆に、妙な獣道が増えていたりしました。よく見ると大小の足跡などの痕跡が見えます。


「今は、依頼を受けた者以外に、人が入っていない……はず、ですので、何かお気づきの点があれば、すぐにお知らせください。」


 麓村から案内についてきた男性が申し訳なさそうに言いました。もし盗賊や野生動物などがいたら、すぐ六人に囲まれて、守ってもらわなくてはいけないからです。




 朝から休憩をはさみつつ、午後の休憩には少し遅い時間に、村の入り口の門だった木の柱が見えてきました。もともとあった木をそのまま利用しているようで、柱に近づくと、穴や何か取り付けた跡があちこちにあるのが分かりました。

 柱のそばに落ちている細かい木々や腐った縄は、縄梯子だったのでしょう。上が見張り台になっているのです。


 フリューシャはダージュとテトグとともにそれぞれ縄などを取り出して柱に上っていきました。てっぺんで、帳面を見ながら、村の様子を確認していきます。




 門からそのまま道沿いに商店だった木造の廃墟が並び、山へ向かって続いていき、少し大きめの、土台に少々石を基礎や壁に使った建物に突き当たります。

 それぞれ建物の間に隙間があり、草が生えてもう何があったかわからない広場へ抜けることができます。広場の端から民家だった廃墟が碁盤の目のように並べられています。


 もうどの家も、屋根も壁も破れているのが分かります。おそらく戦いや、今まで依頼された人々が破壊したと思われる部分もありそうですが、自然に崩れてしまったと考えられそうなもののほうが多そうです。


 突き当たりの石の壁の建物の向こうに、赤茶けたレンガの色が見えます。それがさらに山のほうへ伸びて、ひょろりと背丈が伸びた果実の木が一種類、等間隔に並んでいるので、果樹園だったのだろうと分かりました。何種類かの果樹園のほかに、木の実をとるための木が何本か植えてある場所があり、その奥に、問題の屋敷らしきものの一部が見えました。


 よく見えませんが、見え方で、屋敷と果樹園の間には庭か何か、空間があるのだろうということは想像できました。帳面によると、低木の生垣と、このあたりでは珍しい整った芝生に、美しい花壇だったようですが、今はおそらく見る影もないでしょう。


 民家の詰まった様子から比べると、いかにも広い敷地で、明らかにあの屋敷だけが、雰囲気が浮いているのでした。

 まして民家はぼろぼろなのに、垣間見えるあの屋敷は、表面が汚れてはいるし、蔦が張っている個所はあれど、ひび割れもこの距離では見えず、傾きもせずしっかりと建っているのですから、明らかに作りが違うことが分かります。




 柱の見張り台から降りた三人は、比較的無事な、あの石の基礎の建物を狩りのキャンプ地と決め、まずはそこで食事と、しっかり長い休憩をとり、それから魔法具や武器を装備しました。


 果樹園を抜ける前に、魔法の痕跡を調べるダージュとハユハユの横で、勉強がてらフリューシャも一生懸命、手のひらに魔法具を載せて精神集中です。


「……うぐぐ、ぐ……」

「すー……すー…………」


「フリューシャ、力んでどうする。呼吸は止めるんじゃなくて、ゆっくり、深くだ。ダージュ、おまえさんはさぼって寝たふりするな。眠くなるくらいなら休憩で腹いっぱいまで食うなばかものー。古くても、痕跡があることくらいはわかるだろう?」


 果樹園を抜ける前に、果樹園の探索をしておいてから、いよいよ、屋敷の敷地との境目となる柵にたどり着きました。

 庭園の低木は伸び放題でどのように剪定せんていしてあったのかわからず、その向こうには多様な草が高くあるいは濃く育っています。魔法が飛んでこないとしても簡単に進めそうにはありません。


「時間的に、いったん屋敷に接近して、飛んでくる魔法を確認してから、ベースへ戻るのだ。いいな。案内のあんたと夏樹はタリファのいうことを聞くこと。

 タリファ、待機だが、わしらが戻ったり、危ないと思ったらおっさんたちを連れて撤退だ。」


 ハユハユがシュピーツェの肩から頭の上へぽんと移動して、確認するようにぴっ、と小さな指のような手で指し示しますと、タリファははいよ、と返事をしました。


「感覚が強いテトグが先頭。フリューシャはその次で。ダージュ、魔法は出そうと思わなくていい。痕跡に集中だ。防御は全部わしがやるから死にはしない。痛い目には合うかもしれんが、確実に逃げ切れるようにする。相手を見ることと逃げることだけを考えろ。わしとシュピーツェはしんがりだ。」


 先頭のテトグが匂いや空気の動きを確かめながら、錆びてとれかかった出入り扉をそっと外してそばへ倒しておくと、遠くで陽が沈んだばかりの、うっすらまだ青みが残る空が少しその濃さを増しました。

次回は26日(金曜日)に投下予定です。

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