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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
24/171

宣託による選択によって洗濯 8

 今にも沈みそうな陽を横目に、立会人の代表が結果を見届け人に耳打ちした。



「点数の高い順に、シューウィア、シュピーツェ、スティアーナ。

よって、第三の試練はシューウィアの勝利とする。そして、第一と第三の試練の勝者シューウィアを、この決闘の勝者とすると、見届け人である私アルクス・アルカレウスは宣言する。」



 見届け人アルカレウスはシューウィアに、決闘の原因となった、クリスティンの滞在費は払わなくてよいことと、結果などが書かれた皮紙を渡した。三人は改めて話し合い、クリスティン本人が全額払うことになった。そして、クリスティン本人の代わりに従者がシュピーツェとともに明日、洗濯の手伝いをすることになった。




 洗濯日和の青空の下、木の桶&洗濯棒と手動の洗濯機でかごいっぱいの物の洗濯をする店員とシュピーツェと従者を見ながら、クリスティンは自分の敗因が何だったのか教えてくれと大げさに悔しがっていた。

 棒で洗濯物をたたき洗いしていたシュピーツェがほう、と息をついてから、個人的な考えだがと前置きして話した。


「おまえさん、さすが貴族様で銃の扱いはいいほうだと思ったぞ。動かなくて、一定以上の大きさの的ならおまえさんは十分いける。競技としての銃技に転向して専門でやりこめば世界一にだってなれるかもしれん。


 だがな、実戦の経験はないんだろう? あの若者は腕がいいし、狩人なのか牽制や騙しがうまかったのはたしかだ。そんでも、動きが曲線的だったり、不意だったりすると、あいつや俺がいなくてもお前は後手後手になってしまってたように見えたんだ。


 ま、俺もおまえさんみたいな偉い立場になるかもしれない人間に説教できるような腕なんかなかったんだと気づいちまったなあ。あっははは。」


 後頭部をひとかきして、シュピーツェは洗濯を続ける。クリスティンが何か言葉をつづけようとしたが、干し場に持っていこうと、洗濯できたぶんを取りに来た彼の従者が口を止めるように小さくジェスチャーした。そして、


「坊ちゃま……ええ、クリス様のことをよく見ていたのだろうことはわかります。しかし、貴方自身も、腕がないと言いますが、第二の試練のように、素晴らしい技能をお持ちだ。従軍経験か何か、おありなのではないか。

 もしくは、傭兵や、旅人やら商人やらの護衛をしていたことがあるとか。勝者の青年のように狩りを生業か、趣味にしているとか、何かあるのでは?」


 シュピーツェは従者とともに洗いあがった洗濯物を運んだ。干し場につくと、あごに手をやって考え事をして、


「ああ、どこかの森の中で、あんなことをしていたんじゃないかって、そんな気はしてるよ。記憶を思い出すって程じゃなあないけど、体が覚えてるみたいだからさぁ。もちろん、そのことは、仲間にも話すよ。」




 洗濯の翌日、先日のあのレストランで、六人と一体と四人とクリスティンとその従者は、団体用の大きなテーブルでともに朝食をとっていた。なぜかはわからないがだれからともなく声をかけたのであった。そこで、シュピーツェは、思い出したことを話した。北方か、そうでなくてもそこそこ涼しい地方の森の中で、訓練か実戦なのか、何日も隠れていたことがあったのだと。


「考えながら寝ちまってな。夢を見たよ。はっきりとした夢だ。

 目が覚めるまで夢だと気づかず、ずっと、いつ死ぬかもしれないと怖かった。


 俺は、相棒らしき男と交代で、敵を撃っていた。というよりは、恐怖でおかしくなってたらしくて、動くものをひたすら撃っていた。それで、動物を撃ったらそいつを食い、敵だったらわざと…………まあ、悲惨なふうにして。」


 沈黙が苦手なテトグさえ黙り込んで、クリスティンさえそんな彼女に獣人だのと侮蔑の言葉もかけずに黙々とジャガイモのスープをすくって口に運んだ。




 さらに翌日、シューウィアが声をかけて、また大テーブルで食事をとることになった。


「今日、出発する前に、クリスティンさん、シュピーツェさんに、僕の友達になってほしくて。」


 クリスティンは食べ終わったばかりなのに笑顔でがたっと立ち上がってしまい、はっとした表情でさっと座った。いつものすまし顔に戻って一言。


「別に、よいぞ。今回のことは、私にも、実になることがあったからね。まぁ、悪くない。」


 シュピーツェは素直に席を立ってシューウィアと握手した。店を出る前にもう一度、三人は握手をした。店の人がサービスで、まだ都会を出れば珍しい写真機を持ち出してきて、何枚か写真を撮ってくれた。そのまま、シューウィアたちは荷物を背負って去っていった。




 長距離用の鳥車を借りて厩舎を出たシューウィアは、写真を荷物の中にしまいながら、ここ数日こんなに疲れたことはなかったと苦笑した。仲間も疲れたと愚痴りだした。彼らの先輩はシューウィアの肩をたたいて優しいまなざしを向けた。


「『旅の中で、不思議な友とのえにしが結ばれる』だったな。預言以上に、いい友人ができてうれしいことじゃあないか。」


 またどこかで出会えたら、その時は、ほかの人とも仲良くなろう。シューウィアは仲間にそう言うと、うとうとし始めた。

おまけ(読まなくても大丈夫な説明系)のあとは22~24日に投下する予定です。

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