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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
21/171

宣託による選択によって洗濯 5

 例の若者・シューウィアは見届け人が自分含めた目隠しをつけなおし、立会人が散開していく間、自信満々に微笑んでいた。標準種のくせにあの貴族様はやるなあ、と仲間と談笑するだけで作戦会議なども行わなかった。


 『事件』の際は気弱そうであったが、彼は自分の魔力に自信があるし、特に魔法具に使う宝石や鉱石の見立てには自信があるのだ。石によって魔力の流れかたや波動の違いがあるから、さっきの貴族様クリスティンがやったように、魔力で流れを読んでやればいい。魔力はこっちのほうが明らかに強いのだから、もっと素早くわかるに決まっている。


 普通なら。


 しかしながら、その慢心が肝心の魔力のコントロールに影響を及ぼしていた。見分けがつけばいいだろう、と読みが大雑把になっていることに本人は気づかなかったのだ。


 シューウィアは自分の魔法具の杖に術式を唱えてから極めてゆっくりと立会人たちのほうへ歩いて行った。一歩ずつ、確かめるように踏み出していく。時々術式を追加する。そして、真ん中の立会人からみて数メートル先で立ち止まった。


(あとは一人ずつ端から見ていくだけだ。こんなの、村でも何回もやらされてんだ。どこにでもいる人間なんかに負けてたまるかってんだ。)




 シューウィアは平行に歩いていき、一番左の立会人から順に、一歩前に立って、はめられた宝石でなぞるように杖を立会人に向けて上下した。三人めまで来たところで、手を開くように要請した。

 見届け人が了承して、手を開かせると、赤石の指輪だった。赤石は魔力が強く発せられるから、すぐにわかる。ほかの石を探す邪魔になりやすいから、彼にだけどいてもらうように要請し、続けて同じように杖を向けて、そのまま九人終わったところで、最後の十人めが目標である緑石であると宣言した。

 立会人が手を開いて見せたとき、シューウィアと仲間たちは驚愕した。青石だった。


「違う……なんて……そんな!」


 時間はまだあるんだ、と仲間に励まされ、先輩には落ち着けと言われ、シューウィアは逆に焦りが増していた。何とか見つけ出すまでに、時間はクリスティンより早かったが、赤石の人以外の九人を三周してようやく見つけたのだった。そして、疲れ切った顔で、待機位置へ戻ったのだった。




 シュピーツェはどうするのかと思いきや、目隠しが解かれるとまずは十人それぞれに近づいて、顔を合わせた。じっと目を見つめて、何人かおきに、「お前じゃない、どいててくれ」と頼んだ。

 そして、見届け人にいくつか質問した後、残った六人のうち、端にいた立会人に先ほどのように近づいて、いくつか質問をしてから、


「お前は今、石を持っていないな」


と声をかけた。立会人はちらりと見届け人をうかがい、彼が頷くと頷き返してから


「いいえ」


と短く答えた。シュピーツェはほかの五人にも、石を持っていないか、と尋ね、八番、五番、一番、十番はいいえと答えた。あとの二人は「はい」と答えた。

 

残った四人以外を下がらせたシュピーツェは上着のポケットから小さな水晶玉を出して手のひらに乗せ、示しながら四人の前を行ったり来たりした。それを一〇分ほど続けたあと、五番に下がるようにいい、次に水晶玉をしまってよくわからない青い結晶を手に乗せ、同じように歩いた。それから、立会人一番の前に立ち、


「あんたが、可能性が一番高いな。俺がバカじゃあなければの話だがな。手を、開けて見せてくれ。」


 かりかりと人差し指で後頭部を掻きながら声をかけた。一番がおびえた顔で手を開けると、求められた青石があった。時間もわずか数分早い。


 見届け人は立会人が驚いたりしているのをちらりと見てから、


「魔法を使っていないではないか。失格だ。」


冷たく言い放った。フリューシャたちは愕然としたが、シュピーツェ本人とハユハユだけは笑っていた。


「ああ、やっぱりだめかあ。あっははは。腕が落ちてなきゃあいけると思ったんだがなぁ。」

「腕は落ちておらんのだろうが、ダメっていわれてしもうたものは仕方あるまい。」




 訳の分からないクリスティンやシューウィアたち、フリューシャたち五人は不思議なものを見てしまったという顔をしているが、クリスティンの従者のひとりとハユハユには、シュピーツェが何をしたのかが分かった。もちろん、見届け人は気づいてしまったから失格にしたのだ。


「アーシェでは、コールド・リーディングなどと呼ばれているような、話術のひとつだ。

 当たり障りのない話題や質問で気づかないうちに相手の考えを誘導して望む答えを言わせたり、何か見えないものを当てたかのように見せる技だ。」


 少し離れたところでは、クリスティンの従者の一人が、わからなかったほうの従者とクリスティンとシューウィアたちに説明をしていた。




 休憩をはさんで、三人と見届け人は再び集まって、次の競技を決めるくじを引いた。


「第二の試練は、弓技とする。定められた的三つを二回ずつ射り、多く当てたものを勝者とする。同数の場合はより中心に当てたものとする。」


 クリスティンだけが露骨に嫌な顔をしたのが、待機場所の一同にも見えた。 

次回は12日金曜日に投稿する予定です。


ちなみに、ホット・リーディングもあって、そちらは、あらかじめ人を使って調べたりしたことを、霊能や超能力で言い当てたり探ったりしたように見せる技法です。

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