宣託による選択によって洗濯 4
翌朝。この日中に希望する勝負の内容を決めなければいけない。きまったかなー?と気軽に聞くのは遅れてのっそり起きてきたテトグだ。猫人は朝にも夜にも弱い。ふみゃああ、と猫らしい声であくびをして、残しておいてもらった堅パンに野菜を載せて食べ始めた。
「やっと、思いついた。あとは、見つからない練習場を探すことと、ほかに経験者がいないことを祈るだけだ。」
シュピーツェは五人と一体の顔を順に見てから、決めた内容を話した。
前日、午後になって、町の境を含む森の中に、六人と一体はいた。適当に散らばって木に印をつけ、順番にその木の枝にぼろぼろのフライパンをぶら下げていく。彼らの行動は、町の誰にも知られていない。ただ、あの森で勝負のための練習をすると、許可を取るための町の役人に話したのみだ。
同じころ、若者もクリスティンも、それぞれ別の場所で、仕上げにとりかかっていた。
当日、日が昇る少し前に、三人とそれぞれの仲間がそろった。見届け人と、彼が選んだ立会人の前で、不正をせず堂々と戦うという創造神への宣誓を済ませると、見届け人がくじを引き、最初の競技内容を発表した。
「決闘第一の試練は、魔法の技術を競うものとする。
立会人のいずれかが手に魔法具を握りしめている。それぞれ、赤石、青石、緑石、水晶が使われている。決闘者は、魔力を感知あるいは魔法で手の中を暴くなどして、私が指名する魔法具を持つ立会人を探し当てよ。探し当てた決闘者が複数いる場合は最も早かった者を勝者とする。」
立会人の一人が魔法陣の刺繍が施されたビロードの巾着袋から一つずつ赤石、青石、緑石、水晶のはまった銀の指輪を取り出して、三人に見えるように掲げ、元通りに仕舞った。それから十名の立会人たちは、三人に目隠しをしてから空き地の端まで離れていき、しばらくしたあと数メートル間隔に散らばっていった。
初めに、見届け人は発案者であるクリスティンの目隠しを外した。そして、水晶を探すようにと言った。
立会人には番号が書かれた名札がつけられている。番号順ではなく、ばらばらに立っているのが、近づくにつれ分かった。
彼はまず、右から三番目の立会人の前に立ち、儀礼用の剣を抜いて天に向け、目を閉じた。彼の顔を見れば、口がもごもご動いていて術式を唱えているのがわかるだろう。唱え終えたクリスティンはゆっくり目を開けて剣を下ろし、懐から水晶にひもを通しただけの簡素なペンダントを出して、握りしめた。
数秒ののち、クリスティンは違うなとだけ口にすると、真ん中の立会人の前に立ち、同様に祈った。そして右から三人に、残りの立会人から離れるように要求した。
それから残った七人のうちの真ん中に立って同様に祈りながら七人の前を通り、ひとりに手を開くように要求した。言われた立会人が手を開くと、赤石の指輪があった。クリスティンは怒って地団太を踏みかけて、すぐに平静を装うと、赤石の立会人に、離れるように命じた。それから残った六人の前を行ったり来たりした。一時間くらい経って、六人のうちの一人に指をさして叫んだ。
「八番、あなただろう。手を開いて見せたまえ!」
見届け人が立会人八番に手を開くように命じると、その手のひらに水晶がはまったくすんだ銀の指輪があった。見届け人は小旗をあげて、成功を宣言した。
立会人が一度集まり、違う順序に散らばっていく。その間に、若者が三人の応援やアドバイスを聞いてうんうんうなずいている。
その様子を横目で見ながら、なぜか参加するシュピーツェではなく、あまり関係ないフリューシャが焦っていた。彼が焦るのは魔法関係と料理関係だけといってもいいくらいに普段は仲間は誰も彼が焦るなんて思わない。
顔が青ざめたフリューシャにダージュがどうしたのかと声をかけると
「僕、あんなことができるようにならなきゃいけないんだ……」
自分の魔法の才能のなさを嘆いているだけであった。ダージュとタリファは呆れた。シュピーツェは目もくれずに、歩いていく対戦相手の若者の後姿をじっと見つめた。夏樹が心配そうに彼らやシュピーツェの背中を見つめていた。
次回は明日10日に投下する予定です。
例えば夏樹のようなアーシェ人でも、素養があれば先生をつけて魔法具を使い込めば多少の魔法は使うことができます。素養のある確率はシェール人より低いですし、もの好きだと思われる可能性があります。