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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
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言葉は大事なオマジナイ 1

 予告編にそのまま続くお話です。違うエピソードにすればファンタジーらしいシーンが書けて、もっと書きやすかったのに、と続きを書きながら思いました。

 フリューシャと夏樹を先頭にした六人が、立ち並ぶ『アーシャ式高層建築』のひとつ、要はビルだ……に入っていく。表には『アーシャ言語変換のための特別制定語委員会機関』という長たらしい、細長い看板が取り付けられている。


 中に入ると、受付らしいカウンターで二人が手続きをしている間、四人は広がるエントランスを眺めた。

 五~六人が掛けられそうな平らな椅子が、大きな窓の際に三つ寄せてあって、近所の人らしい、普段着の人がくつろいでいる。それ以外はぽっかりと広い空間が開いていて、ちょっと見ただけでも三~四階ぶん吹き抜けになっているせいで、とてつもなく無駄をしている気になってくる。吹き抜けに沿って通路があるらしく、人が行きかう姿が小さく見えている。


 手続きが済むと、六人は受付の脇にある、駅の改札口のような細い通路が並んだ場所を通り抜けた。中年のおじさんが挨拶をかけてきて、六人は彼の後をついていった。


「ここは、アーシャーイア独特の事物を、標準語であらわしたり、説明したりする辞書を作っています。原稿を書く部署、校正と辞書のレイアウトをする部署、印刷して製本する部署、各種手続きと世界各地に発送を行う部署があります。」


 一行が請け負ったのは、原稿を書く部署だ。欠員が一度に出たので求人の広告を貼っているときに、その広告で立ち止まった一行を見つけて声をかけたのがこのおっさんであった。


「しかも、夏樹くんはニホンゴが分かるそうじゃないか。なんとありがたいことだろう!」


 異世界渡航は日本人が多いと聞いていた夏樹には、日本人がつかまらないなんて不思議な話だったが、割り当ての部屋をあけてすぐに理解したし、自分に出来るのか不安になった。


 原稿を書くべき単語が大きく書かれていたり、地球から持ち込んだと思われる紙がそのまま貼ってある壁が一枚あった。そして、半数以上が、日本由来なのだ。


 日本語のことわざだったり、独特の略語やネットスラング、人のあだ名か芸人のコンビ名など。それも、夏樹から見たらおじいちゃんが若い頃に流行ったものだとか、それ以上に古いものもある。

 渡航者は二十~三十代の人が多いからことわざとか細かく知らないし、ネットがあるとかVR機械を使う人は、その環境を失うから渡航なんかしない。高齢の渡航者はのんびり隠居目的だからこんな都会にはいないし仕事もしない。


「これ、必要なんですか?」


 夏樹がことばの一つを指しておじさんに質問した。辞書って、専門のもの意外、ごく一般的なことばが載るものであって、一時的なものとか、変な固有名詞とかはあんまり要らないんじゃないの?そういうことを夏樹は思ったのだ。文化的理由でおじさんにその意図はまったく伝わらなかったが。


 この世界には辞典は外国語標準語辞典と、標準語自国語辞典しかない。あとは、みな事典なのだ。たとえば、地球の音楽グループの名前を引くと、


『アーシャーイアのXXX国で活動していた演奏と歌唱を行う団体のひとつ。西暦XXXX年にXXXXを長として結成され、XXXX年に最初の音集を発表。映像端末広告に使用された曲XXXXが有名。』


のように始まり、メンバーの名前や生没年月日、ディスコグラフィが載っている。同じグループを地球の辞書で引いたら『XXXのロックバンド。XXXX年結成。』くらいしか書いてない。


 夏樹の仕事は、壁にあることばの説明をひたすら書き、書いた日本語のままでは伝わらないので読み上げることである。原稿係が聞き取って書き取り、原稿の元としてまとめ、これまた読み上げて夏樹たちで分かるかどうか確かめて修正を施し、納得いくものが出来たら次の部署へ届ける。なお、紙は貴重というほどではないが無駄遣いできないので、清書は次の部署が行う。




 夏樹が、情報端末(PCに近いもの)の画面にデータだけ持ってこられた地球の事典サイトを表示しながら奮闘していると、同僚の一人が近づいてきて飲み物何にする?と聞いてきた。休憩時間になったようだ。メニュー表を見て適当に指をさすと一人がメモを取っていて、いってくると言い残して出て行った。


 受け取ったお茶はほうじ茶に近いもので、夏樹はほっと一息つくと、休憩って何すればいいのかなと思い他の席を見回した。

 寝てる人もいるし、飲み物のほかにおやつを食べている人もいる。部屋を出る人に聞いたら将棋のような卓上ゲームの人と、テニスのようなスポーツをする人と、映像端末の番組を見る人がいた。それぞれ専用の部屋があるらしい。離れた席にいたフリューシャが彼の隣の人と共に席を立ったので夏樹もついていくことにした。




 柔らかなピンク色のカーペットが愛らしい雰囲気の部屋だった。託児所があるのだ。赤ん坊から、小学生程度の子まで、十五人くらいが思い思いに遊んでいる。お絵かきだったり、はいはいで動き回ったり、積み木だったり。そこに同人数の広い年代の女性が居て、見守っている。女性の一人が、フリューシャと一緒にいた人を見て、さっと子供の一人に声をかけ、抱き上げた。


「ぱぱー」


 子供は女性からさっとパパの胸に移って、きゃっきゃっと喜んでいる。


「では、また明日。」


 パパは女性たちやフリューシャに手を振って去っていった。ここの労働時間はどれくらいなんだろうか。夏樹は女性の回答を聞いて、自分の両親が聞いたら怒り出すか泣き出しそうだなと思うのであった。地球時間で言うと十時ごろに始まり、四時前に帰れるのだ。昼は一時間半ほどある。交代ではなく、係以外全員いっせいに休憩する。どこでも同じらしい。




 文化の違いに驚きつつ、見せてもらった見本にも過労死の項を見つけた夏樹は、心配そうに顔を覗き込むフリューシャと別の部署に行っていた仲間の女性タリファに、労働時間や環境についての驚きを説明した。


「おまえの国は偉い奴がみんな湿気で脳ミソがかびてしまったんだねエ」


 タリファが泣き出して、彼女がドワーフであるゆえの身長差でどうしても周りから見ると二人で彼女を問い詰めているように見え、ちらちらと視線を浴びてしまう。なんでもないという風に三人そそくさと分かれてその場をごまかすと、時間は残っているがそれぞれ部署に戻った。あとは明日のための話し合いを軽く行って帰るだけだ。




 帰る途中、六人は会社のそばで妙なものを拾った。

投稿の間隔は不定期ですが、目標は三日以内、せめて一週間以内には投下したいです。(別のエピソードとなる話は今までのように一~二週間、開くと思います)

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