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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
旅の始まりから
18/171

宣託による選択によって洗濯 2

 原因となった若者はおろおろしていたが、クリスティンの大仰な様子を見てなぜか少し落ち着いたようだった。転んだ店員が貴族への礼儀通りにクリスティンにひざまずいて謝ると、クリスティンは汚れた上着をさっと渡し、元の席の隣に着席した。しかし、下に着ていた中衣のシャツにも、油の色がはっきり染みていて、テトグとタリファは小さく噴き出した。


 シュピーツェはそれを見て、自分も上着を渡した後、席にはつかずに、もう一枚脱ぐか悩んだ。彼は肌着を着ないので、中衣を脱ぐと裸になってしまう。クリスティンも、下着姿になるわけにはいかないからと、噴き出されてもそのままシャツ姿で軽食を食べ始めた。


 別の店員がほどなく、ぬるま湯を満たした小さな手桶を持ってきて、ハユハユはそこへゆっくり沈んでいった。店員は戻り際にシュピーツェとクリスティンを店の奥へ連れて行った。しばらくすると、漂白されていないやわらかい白のシャツを着た二人が戻ってきた。


「ふーん、庶民の服はやはり着心地がやや硬いね。それに私のものでないから仕立てが合っていないのももちろんある。」


 後ろからついてきた、お詫びのサービス軽食を持った店員に頭を下げるのみのシュピーツェに対し、クリスティンはぶつくさつぶやいていた。本人はそのつもりはないのだろうが、周りは、文句を言うなら同席しているお付きの者に服を出してもらえよ、と思うのだった。




 店員が去ってから、例の若者たちが謝りに来た。フリューシャの耳のピアスを見て、貴方も成人の旅でしたか、と年長者が言うと、背後の三人はますます縮こまった。


「大切な旅の途中に、申し訳ありません!」


 シュピーツェが首を軽く横に振り、お湯のおかげで元通りになったハユハユも若者たちへ声をかけている。安心したフリューシャが、二人が気にしないなら僕も、と言いかけたところで、クリスティンとお付きの者が割り込んできた。


「滞在が余分に伸びてしまった。そこの者たち、その分の宿の料金を払うのだ。払えないなら、私と決闘せよ!」


 若者たちも六人も訳が分からなかった。察したお付きの者のひとりが咳払いをして説明を始めた。




 身分の低い者は一度に多額の金を支払うことが難しい。さらに、決まった居住地のない旅人などは、書面を交わして時間をかけて完済させようとしても逃げてしまうことが多かった。そこで、かつてのルプシア国では契約の履行か破棄かを決めるための決闘がよく行われたといい、今でもごくまれに行われている。


 決闘をする場合、お互いが了承し、日時と内容を決める。内容は、両方(三勢力以上の場合でもすべての勢力)それぞれに希望する内容を紙にしたため、見届け人として選んだ第三者に預ける。見届け人は、全ての紙を手にしたら、書かれた内容を各陣営に伝える。それから見届け人は行う場所を決め、日時が来たら各陣営を案内する。決闘が済んだら、紙を燃やし、その灰を決闘で戦った者たちに振りかけ、「この件はもう決着したことである」と宣言する。もちろん勝利数の多いほうの意見が通る。契約の履行と破棄なら、勝ったほうの言い分が通るし、一勝一敗であれば半分の履行になったり、見届け人が多少介入することもできる。


 決闘といっても、殺し合いなどの武力行使ばかりとは限らない。単なる喧嘩の決着などで殴り合いになったり拳闘になったりするのは確かに数が多いし、剣術や武術の力を競うものも多い。

 しかし、腕っぷしの弱い者は内容に工夫を凝らして勝とうとする。トランプのようなカードを使った遊戯で頭脳戦だったり、手先の器用さや料理の腕を競った決闘も少なくない。国王が決闘を申し込み、競技場での催し物にしてしまった記録がルプシアには数多く残っているが、有名なものの中には、学者を連れてきて難しい命題について議論をして決めたという記録があるくらいだ。例えば、難しい数学の問題で勝負しても何も問題はない。




 説明が終わると、クリスティンは若者に儀礼用の刃無し剣を向けた。若者はおびえながら、わかりました、と返事をした。クリスティンが見届け人を決めようと、店内を見まわしていると、肩を叩くものがあった。


「俺も参戦する」


 シュピーツェが、にやりと口の端をあげた。

次回8~10日(月~水)くらいに投稿します。

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