最後の、六人と一体が行く 3
夕食もゆっくり平らげ、食器が下げられて食後の甘味と紅茶だけになっても、空になった甘味の皿が下げられても、一行は茶を飲みながら話をつづけた。
いくつめかの茶の容器も空になり、全て下げられた時、シュピーツェが「さっきの、メシがマズくなる話」をすると切り出した。
まず、彼がアクヴァたちと別れた理由である。
彼らの団体は、数人の「代表者」のもとにまとまっており、その代表者ごとに動いている。代表者ごとの部署に分かれている会社のような感じだ。
ほかの代表者の元への移動は、双方の代表者が認めない限りできない。他の部署が何をしているのか、出来る限り教えず、細かいことはあえて分からないようになっている。追っ手に捕まったときのための対策だ。
アクヴァの「代表者」など、何人かは、水面下での活動の証拠をつかんだらそれを公表し、軍部に抗戦するという方針をとっている。シュピーツェがいた当時、抗戦派が主流になっていた。公表して軍部が補償なり活動の完全な破棄なりすればよいという穏健派の部署に移る希望は、叶いそうになかった。
シュピーツェはある活動中に軍部の施設へ侵入したとき、そこでわざと行方不明になった。そして、別行動していた穏健派に混ざって離れようとして失敗。アクヴァたちに追われている途中でどこかの国の特殊部隊にも追われるようになってしまい、一人で逃げて行き倒れてしまったという訳である。
助けられてから教えられた内容によると、行き倒れた彼を助けたのは、どこかの冒険者バーティだったらしい。彼らが「長耳族リーダーのパーティに所属するシュピーツェという者」を見知っていたことと冒険者タグによって、単なる行き倒れた冒険者として病院に収容された。
領地内の出来事としてクリスティンの耳に入り、クリスティンはシュピーツェの身柄を引き取った。
シュピーツェは、クリスティンに団体のことを出来る限り明かした。そして、自分や彼らがどこか複数の軍の部隊に追われていることも。
クリスティンは内政の勉強の一環で暗部のことも知っており、シュピーツェを信用した。ある程度の裏取りも進めているところだったというのもある。
「スティアーナ公は、アメリアとツァーレンの水面下の動きを探っていて、まだおぞましい実験部隊が動いていることを確かめたところだった。水面下の動きが高まっている時に、俺を拾った。後追いになるが証拠をつかみ、表に出してしまえば両国への牽制になる。
……しかも、ヤバい実験をしていたのは、ツァーレンではなくすべてアメリア側の国だということも分かった。諸王国領自体も含まれているが、それも明かした。
アメリアの政治家や軍の幹部の一部が近々ツァーレンに戦争を仕掛けられるように動いていたこともつかんだ。そのあたりを、公は全て表にぶちまけたんだ。」
表と言ってもサミット的な為政者同士の会議の話題に乗っけただけなので、ニュースとして世間の人々の元へはまだ届かない。しかし、アメリアの現首相は、否定しなかった。
「あいつらが戦いだす前に、動きを作れたんだ。これから、諸王国領含めて、変わっていくはずだ。」
シュピーツェは、空のカップを口元へ運びかけ、空だと気づいてそっと元へ戻した。
「こうやってあと何回か会えるといいんだが、難しいだろうな。手紙くらいは、安全に出してもらえるが、情勢によっては、どうなるか分からない。スティアーナ公は、お前たちも保護すればいいと笑っておられたが、お前たちまで、俺のように身分も何もかも捨てるわけにはいかないだろ。」
六人と一体と、連れの一人は、もう二度とないかもしれない豪華な部屋で眠った。祭りが終わり翌日は別れるという夜、これが最後だとわかっていたかのように、六人と一体は抱擁を交わし、その時には理由が分からない涙をこぼした。
それから一〇年近く経ってから、六人と一体は誰にも追われなくなった。世界の、めんどくさい部分が変わったのだ。それでも、六人と一体が全員揃うことはなかった。手紙だけが代わりに世界を駆け巡った。
次回から超不定期になります。