最後の、六人と一体が行く 1
フリューシャたち六人と一体が最後に揃ったのは、旅を終えてから数十年経った頃だった。
三人は住んでいる町とずいぶんと都会になったリャワとを行き来して、それぞれの店を切り盛りしていた。夏希とダージュには妻や子供もいるし、まだ一人だったフリューシャも新しい友人や仕事による交流が増えていた。
ちょっとした旅行くらいには行けるが、店や家族のこともあり、何週間以上も家を空けるような旅は難しい。それこそ、もっと後輩を育てて、経営に直接かかわらないところまでいかないと、無理なのはわかっていた。
その日も、三人はそれぞれの店舗で忙しく働いていた。一番繁盛する時間を過ぎて、頃合いを見て店員たちにまかないを食べるように声をかけたダージュは、珍しくフリューシャが従業員用の出入り口ではなく、通常の出入り口から入店してきたので驚いた。
手には、草の茎やバッタのような、くすんだ緑に染められた封筒があった。装丁は儀礼用の飾り封筒のようだが、ダージュから見ると美しさとは離れているような気がしていた。どうせならもう少し上品に薄い色のほうがいいのに、とダージュは封書をさしながら言った。軍隊の制服など無骨な雰囲気がある引きしまった濃い目の色あいだった。
手紙は、ルプシア諸王国領のなかのスティアーナ公領、つまりクリスティンが治める地域の消印が押されていた。アーシェ式に切手を貼るのではなく、先に料金を納めた証が表面に押印されている。あて名は知らない名前だが、封蝋にスティアーナ公の指輪が押してある。少なくとも、クリスティンと深くかかわる人物ということになる。
封筒の裏面に、三人で見ることという走り書きがある。二人は、その字に見覚えがあった。
夕方になり、それぞれ店が落ち着いたころ、三人はダーシュの店の奥の部屋を使って、封筒を開け中身を広げた。開封したとき、指輪の封印に魔法が込めてあるのをフリューシャは感じた。
中には、封筒とお揃いの緑をした便箋三枚と、白地にごく薄い紅色で模様を散らした上等な紙質の便箋が一枚入っていた。
『フリューシャ、ダージュ、夏樹へ
宛名に見覚えはないはずだが、俺は君たちにシュピーツェと名乗っていた者だ。君たちと別れたのは、君たちも想像する通り、アクヴァたちの仲間に呼ばれ、半ば拉致されたからだ。
本当は、書置きも魔法で焼かれそうだった。何も言わずに別れたら、お前たちは彼らを恨んだり詮索したりして、良いことにならないだろうと向こうを説得した。最低限、自分の意志で去る事しか伝えられず、ずっと申し訳なく思っていた。
アクヴァたちの集団は、穏健派を追い出し急進派が指導者側を占めるようになっていた。過去の記憶によって狙撃や潜入の才能がある俺を、彼らは実行部隊に編入したがっていた。
当時の俺は何をしようという目的もなかったが、その実行部隊はかつて中央平原の半分を焼け野原にした爆弾を復元しようとしていた。
アーシェの物理学を学ばされた者たちがいくつもの復元試作品や新作を完成させており、実験を兼ねて、古い軍事施設を掃討する作戦が立案されていたんだ。俺は嫌な予感がした。
君たちと最後に別れてからおそらく数か月だろうか、そのあたりで俺は編成された部隊の一人として、爆弾の実験を見学させられた。
精神的にネジがすっとんで戻れない仲間や、情報源としてさらってきた退役軍人とかを地下の実験施設に放り込み、そこで爆弾を炸裂させた。復元型か新型かとか、細かい機構も聞かされたがそんなものはどうでもよかった。
俺は、ここに居てはいけないと思った。数日後の夜、見張りにちょっとした騒ぎが起きたので、隙をついて脱走した。
どこをどうやって逃げたのかはもう分からない。途中の町で、俺を君たちのパーティの一員として知っている商人に出会ったのがまず幸運だった。俺は変装して、鳥車にかくまってもらった。これで相当な距離を稼ぐことができた。
だが、あいつらも馬鹿じゃない。かつてパーティを組んでいたアクヴァを使ってその商人のことを突き止められた。予想はしていたが、うまく商人たちを誘導され、俺は一人で行動させられる場面ができてしまった。もちろんがむしゃらに逃げた。おそらく数日後のことだろうか、俺は倒れたようだった。
次に目が覚めたとき、あの人がいた。君たちも知っている、スティアーナ公だ。もう、あいつなんて呼べない。俺は、彼に雇い入れられて、彼の領土に属することになった。今の俺は、ルプシア人だ。
いくつかの条件さえ飲めば、隠れながらではあるが、不自由のない生活ができるし、ああいうえげつない作戦に付き合わなくてもいい。自分も要人を守りながら戦うことになるが、一応守ってもらえる。
俺はクリスティン閣下の私兵として第三の、だろうか、人生を送っている。あの方は今でも魔法と剣術の訓練を欠かさない。俺たちのような兵士に交じっても十分に強いお方だ。俺もやりがいがある。
長い文章を書くのはまだ慣れないが、やっと本題を書く。だらだらと書いてしまったことを許してほしい。
先日新しく即位された国王陛下の生誕祭が、来月に行われる。その日は他の王位継承者とその親、その子は別荘地で厳重な警護を受ける。
閣下は「かごの鳥になる週間」だと冗談めかしておられた。退屈極まりないのでお前たちを呼びたいとおっしゃったのだ。
ただ、古い慣習だから約束事は厳しい。生誕祭の期間中に親族の館は全て出入り禁止になる。そこで、生誕祭の前々日までに、閣下が指定した場所へ来てほしい。ゆっくり話ができる機会が次にいつあるか分からない。』