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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
それから と それまで
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円い嵐

 面倒な『原理主義者』のいる港で、大陸の北へ行く船に乗ったフリューシャたちは、出港の翌朝にたたき起こされた。

 定期船では、朝昼晩三食は必ず決まった時間に客全員で取る。しかし、今回起こされたのは、朝食には早すぎるし、二度寝したら朝食を逃してしまう気がするような時間だった。


 乗客は全員、食事用の広い船室へ追い立てるように連れてこられた。見たことのない船員が一人、船長の横に立っていた。服装的に、操縦や見張り、接客の関係で呼ばれたのではなさそうに見える。


「みなさん、嵐が近づいていて、戻るか急ぐが、今から半時のあいだに決めてください。それから、説明ののちに、ここで水や風の魔法の申告をお願いします。」


 その船員は、嵐のことを説明すると言った。夜明けのあとで、まだ周りは明るい。遠くに少し、曇り空が見えるだけだ。文句を言い出す客もいたが六人と一体は黙っていた。


 船員は、文句を言った客ににひるみながら、嵐のことを説明した。


 年に数回、この航路は嵐で通れなくなる。ほんの五〇年ほど前に、この嵐はだいたいの様子が分かるようになった。それから数年の間に、嵐が通る前後なら、魔法で海に干渉し波を抑えながら航行できる技術が確立した。さすがに嵐が近づいてしまうとその方法は使えない。

 嵐の発生は季節的なものではあるが、最も発生の多い三か月だけでも、完全に航路を閉ざすのは非効率的だ。そして、それ以外の時期に発生しないわけでもない。なお、魔法で発生そのものを抑えようにも、発生地点やメカニズムなどが分かっていないので、抑える魔法を作れない。


「台風みたいなものというか、台風かな。こっちにもあるんだね」


 夏樹が言った。説明していた船員はぱあっと表情を明るくして、目を輝かせた。


「そうなんですよ! 予報精度を上げて、アーシェ並みに進路の予想ができれば、お客様にこんなご不便を強いることもなくて済むんですけどっ!」


 日本の場合は、高いところ……かつては富士山からの観測、そして途中から人工衛星による観測システムによって、数時間分ならかなり精緻な予測がなされている。だが、シェーリーヤには通信用の、ほぼ単機能の小さな衛星しか人工衛星が存在していない。

 この船員が知りたいのは予報に必要なデータは何かとか、どのくらいの制度かとか、そういう内容なのであった。しかし人工衛星のしくみなんて知らない夏樹には、船員が期待するような情報提供はできなかった。


 船員が地図を広げ、予測進路や現在地などを書き入れていく。別の船員が魔法に関する申告を伝えた。

 船速などを考慮し、魔法で一定以上の速度が出せて、数分でも維持出来たら少し避けて駆け抜けることに決まった。風の魔法や、船そのものを進ませる魔法を使える人がいたのもあって、速度は十分すぎるほど間に合いそうだ。話し合いは10分もかからずに終わった。


「こういう魔法らしい魔法、久しぶりだから、恥ずかしいなあ」


 夏樹とフリューシャが操る感覚を取り戻すまで数分かかったが、人数が多いのと、水を操る魔法がうまくいってむしろ波をうまく利用できたので、船は船員たちが想定したよりも速く、海原を突っ走っていった。ほぼ全員にとってあっけなかった。


 最も接近したときだけ雨に降られた程度で、抜けた後に乗客も船員も存分に休憩し、生鮮品の大放出サービスで腹を膨らませた。本来の到着時間より半日近く前に着いてしまったこともあり、船員たちも港で予定外の休息をとることができ、大喜びなのであった。




 数年後、アーシェから移住した者とドワーフの技術者によって気象衛星が打ち上げられたが、観測結果の読み取りや予報の精度は、アーシェのようにはいかなかった。気象予報士のほうの教育が間に合わなかったのである。

 国際機関が認めた資格と教育、そして様々な基準や予報の記述、発表などのフォーマットが確立するまで、さらに数年、沿岸の人々は待たされることとなる。

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