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異世界旅行譚 六人が行く!  作者: 朝宮ひとみ
それから と それまで
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ふたたびの別れ 2

 四人と一体は、アメリアに接する小さな国メフグリアで数日休みをとった。その前に数日間、強行軍だったからだ。何度か使っていてよく知っている道が、道幅の拡張と整備点検のために、しばらく通れなくなってしまうと聞いたのだった。手前で足止めされると、ふたたび通れるまでの数か月間、その近辺の店舗に立ち寄れなくなる。


 目当ての店は、菓子屋だった。焼き菓子も生菓子もあるし、それに合うようにお茶やコーヒーも置いている。生クリームを使ったケーキなどは、乳製品の生産地から離れた森の中ではとても食べられない。リャワが、いつかの町のように飛空艇の発着場を備えるくらいにならないと、気軽に食べられるようにはならないであろう。


「そりゃあ日本にいたころだって、ケーキなんか年に数回しか食べなかったし、特別食べたいと思うことは少なかった。でも、さすがに『しばらくの間ほぼ絶対に食べられない』ってわかってて、機会をスルーするのもどうかと思うんだ」


 甘いものが特別好きというわけでない夏樹でも、食べられないと言われたら食べたくなるものだし、コーヒーが好きになってしまったダージュも、コーヒー好きがめったにいない集落に帰る前に多少は豆を買って帰りたいものなのだ。フリューシャは甘いものは好きだしその店のお茶のブレンドも好きなのだ。買って帰って何をどれだけ混ぜてるか研究して自分で再現したいとかそんなことを考えている。


「ごめんね巻き込んじゃって」

「別に、いいさ。俺も、嫌いじゃないしな」

「この店はわしも落ち着くから好きだぞ」



 四人と一体はワクワクしながら店ののれんをくぐった。

 今日の担当パティシエというカードの上に、堅物そうなドワーフの男性の写真が貼ってある。ドワーフは器用で忍耐もあり、職人には向くが、果実が少ない北方の民だからかパティシエや青果を扱う者は少ない。そんな少数の中でさらに、そこそこ上品なレベルの店の看板を背負うのだから、もう何十年も経験を積んでいるつわものに違いない。そんなことを話しながら、一行はテーブルに着いた。


「相席、よろしいですか。こちらのお客様のご希望なのですが、いかがいたしますか」


 ウェイターから一歩下がった位置に、メニューで顔が隠れた、古めかしい魔女装束の人が見えた。四人が固まっているとその人はひょいとメニューをウェイターに渡して、手を上げながら、よっ、と短く挨拶した。ハルーミン・アルカディアだった。帽子はなく、植物やアクセサリなどの小物を混ぜながら髪がボリュームアップ気味に結い上げてあった。


「一緒で、いいですよ」


 あいさつした者の顔を見て、四人からほぼ同時に声が出た。ウェイターが注文を聞いて下がって行くと、五人は小さく噴き出した。


「おぬしらを、探しておったのだ。私の時間に余裕がないから、単刀直入に言うぞ。ハユハユお前をちょっと借りたい。お前さんご指名で、仕事ができた。面倒な魔法を紡ぐお仕事だ。それ以上はここでは話せん。」




 関係ない話も含めて、彼らはゆっくり話をした。時間は大丈夫か聞かれたハルーミンは、自慢げに言った。


「ここでゆっくりしてもええように、今日は朝から急いだのだぞ」




 会計を済ませ、店を出たところで、ハユハユがダージュの肩からハルーミンのほうへ飛び移った。四人と一体は、四人になった。


 メフグリアでの最後の夜、ふと三人が気づくと、シュピーツェはいなかった。ホテルは彼のぶんだけチェックアウトも会計も済ませてあった。三人それぞれに、手紙が残されていた。

 四人は、三人になった。

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