本当の帰郷 3
僕たちがある程度近づいたところで、笛の音が聞こえた。きっと、見張りの人が、僕たちが近づいていることをみんなに伝えたのだろう。僕たちの前に誰か他の旅人がいるかもしれないけど、その時はまた笛が同じように鳴るはずだ。結局ずいぶんと近づいても笛はならなかったから、他に人はなく、僕たちのことで合っていた。
閉じられた門のたもとに、僕の母さんと、ダージュの父さんがいた。それと、ダージュの家のそばに住んでる従兄弟がいた。三人のほかには、やや後ろに引いた位置に長老の遣いの人が直立不動で立っていてちょっぴり変な感じがした。
僕たちが門の前に立ち、その影が門の影に重なったとき、母さんがおかえりと言ってくれた。僕は泣きそうになるのを我慢しながら、頷いた。しゃべると泣き声になっちゃうからだめだと思って、口を結んだままでいた。
ダージュが父親にただいまというと、父親はダージュの肩を叩いた。ちょっと強かっただろうなと思った。結構大きな音がした。
そのまま父親が数歩進んで、立ち尽くす夏樹にも、ダージュへよりはちょっと優しく肩を叩いて、中へ入るよう促した。夏樹はきっとどうしていいかわからなかったんだろう。それか、遠慮したのかな。改めて声を掛けられるまで動かずにいた。
僕たちが促されて門を開けると、大人が集まっていた。あまり知り合いでない、離れた区画の人もいた。遣いの人を先頭に、僕たちが進むと人々がさっと道を開けてくれて、かなり恥ずかしい。ある程度進んだところで、三人で軽く挨拶すると、人々はそれぞれ散らばっていった。そのまま遣いに着いていって、長老の家まで行き、前に「帰った」時のようにもう一度、成人の儀の旅の終わりを報告した。長老が何かしゃべって、それを聞きとった遣いの人が僕たちをそれぞれの家の前まで送ってくれた。
あっけないな、と思った。思い返せば、ダージュの従兄弟のお祝いをした記憶はないし、集まってパーティをしたこともないなあ。
ダージュの家の前で、彼に従兄弟のときのことを聞いてみたけど、おめでとうの挨拶と、食事に一品余分についた以外に何もなかったと言っていた。人によっては、本人や家族が希望して、パーティすることもあるんだろうけど、従兄弟たちはやらなかったそうだ。
玄関先で立ち止まり、振り返って僕に手を振るふたりに、僕はさようならと言いかけた。
「また明日」
二人はそう言った。僕も、言い直した。
「じゃあ、また明日」
玄関先で、両親が待っていた。僕はただいまを言うと、前に話せなかった思い出を話し始めた。