本当の帰郷 1
僕たちが家を出てから三年と半年以上が過ぎた。『巡礼』中に起こった事態による思わぬ帰郷から考えても一年以上経ってる。
うちの集落や近所はここ一〇年くらいの間に成人の旅へ出た人は、三年か四年で帰ってくることが多いらしい。だから僕たちはもう、帰ってもいいし、もう少し普通に旅行してからでもいい、丁度良い感じだ。
まして、『巡礼』のこととか、あの奇妙な集落のこととか、急にいろんなことが起こって、身体以上に心の疲れを取り去って帰りたかった。
高地の国エルシアや、東方の国の山地など、温泉へ寄りながら、僕たちは、六人のままで旅を続けて僕ら三人の家の前で解散するくらいのつもりでいた。
だけど、街道沿いにできたばかりの村で、村の商人がタリファに残ってほしいと言い出した。突然のことだったので次の日まで待ってもらい、朝早くにタリファは荷物をまとめ、僕たちと別れた。
その日僕らは、僕らが帰ったあとどうするか、あらためて考えた。がっちりした予定から、漠然とこんなことしたいという緩やかな願望まで、なるべく言葉にした。
その時考えた通りになったこともあるし、そういうつもりもない方向に行った人もいる。
テトグは、同じ猫獣人ワシェナや狐や犬の獣人だけで旅をしているパーティに入った。自分たちの町を作るための場所探しと、より多くの賛同者を誘うためだ。もともと住処を探すために旅してたのだから、目的が合う仲間が見つかって僕たちも喜んだ。
シュピーツェはアクヴァさんの知り合いに伝言をもらって、一人で去っていった。連絡先を残してくれたので、過去の入院のときみたいな恐怖はない。でも、別の不安はある。
過去を知るのか、諦めるのか、それから何をするのかは、ぼくたちが決められることじゃない。ぼくたちが勝手に不安がってるだけなんだ。
それに、連絡先はクリスティンの持ってる城やら館の一つにつながるとわかった。あの人の権威が及ぶ場所なら、アメリアやツァーレンにいきなり暗殺されるとかいうのはないはずだ。
ハユハユは、街道から少し外れた道でハルーミンさんとすれ違った時に、彼女に引き取られていった。偉い人からの指名で、何か仕事を任されるらしい。あの乗っ取られた集落のときのような、複雑な魔法を使う仕事なんだろうか。
僕たちは話し合って、帰るときは少しだけ、出発したときの行程を逆にたどることに決めていた。高地の温泉街から西の大平原の小さな町へ降りて、ここから辿ろうと決めた町まで南下した。街道から少し北にそれていて、途中で吸血鬼の人に出会ったところほど森の中でもない。中途半端だけど、そこで出発から思い出せるだけ、それと夏樹がスマホや手帳に残した日記から、帰る道筋を決めた。
アルネアメリアのあの出版社にも、ほんの半時にもならなかっただけど立ち寄った。アーシェ人が何人もいた。何人かは、アーシェの出版社の人だった。僕たちが編集長さんと話しているところへやってきて、夏樹に名刺をくれた人もいる。夏樹は名刺を見て驚いていた。有名なところだったんだね。
西方最大の港サンタニーアから南側へ渡る船を探す。今回は降りる港が既に決まっているし、最初に渡ったときと同じ所属の船にすると決めている。着いたらすぐに受付を探し、一番早い日程で乗ることができた。
ずいぶんと仲良くなったなあ、と船長さんに声をかけられた。仲が悪くて喧嘩してはタリファに叩かれたりつねられたりどつかれたりしてたのを覚えてたみたいだ。僕たちに彼女がいないのを寂しがっていた。乗船のときに僕らの耳を覗き込んで、おめでとうと言ってくれた。
ミルルアは港の施設が前より少し大きくなっていた。通りの店も塗り直したり建て替えたところがあった。
ボードゲームをやったあの店はそのままになっていた。周りが綺麗になったせいで、ちょっと古びて見えた。何日か滞在して、あの人にまたゲームを申し込んで、二人ともやっぱり五連敗した。翌日は十連敗。
僕も一度相手をしたいといわれて、初めてやってみた。最初の夏樹よりもひどい有様で、店中の人が笑っていた。笑われたけど、嫌な感じはしなかった。僕もおなかが痛くなるほど笑った。
前よりも波動生物が多くなっていて、紫っぽいやつを見てハユハユが増えたかと思った。他人、ていうのかな、喋りかたから違うやつだと気づいた。喋るまで気づけなかった。