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東の港 1

 森を抜けた崖の上から六人が見下ろすと、遠くに海が広がっていた。人工的に作られた桟橋などが伸びているのが見え、目で辿っていくと広く、コンクリ状のもので固めた場所があった。水揚げをするところだ。

 ちょうど開いている時間で、片付けの人が何人かかごを台車に載せて運んでいる。人種がごちゃごちゃした西と違って海のエルフと東方人がほとんどだ。東南人もいない。

 売り物にならない魚が何か所かにわざと放置してあり、海鳥や猫や波動生物がついばんでいた。


 西側の長耳族の港は、長耳族の様式よりも、交流が深いサンタニーアの港の様式に近いが、こちらは完全に東方様式の街だった。

 町を囲むような城壁も上からなら崖下以外良く見える。石垣のつくりも、大きな石を敷き詰めたような西方と違って、細かい石が組み込まれ、まるで石を集めて魔法で固めたような見た目だった。もちろん、魔法ではなく、技術的なもの……積み方と接着剤である。道の舗装も、コンクリートやアスファルトのような素材は隙間埋めやつなぎで、石を敷き詰めて作る。陶器を使う場合もあるらしい。


 崖から迂回して本来の道を降り、城壁へ向かって歩いていく。商人ばかりなのか、前後を歩いている護衛の冒険者以外は荷車の中に引っ込んでいる。乗鳥の手綱を引いているのも冒険者だった。


 城壁から入る際に、六人全員が腕章のようなものを腕に巻かれた。橙色の布地に黒く染められた東方の文字が三つならんでいた。外国人とか異邦人という意味だと担当の役人が説明した。外に出るときには必ずつけるように念押しされた。つけていない状態で外の者だとわかった場合は罰則もある。




 中へ入ると、東方文字の洪水が六人に襲い掛かる。役人の一部と店の商人しか、標準語を話せないので、地元の人向けの飲食店に入ると注文もできずにそっと頭を下げて立ち去るのみである。


 東方文字は、漢字のようにいくつかの部位が合わさって意味や音を表している。例えば、ダージュの名前のダーは大きいという意味の文字で、音を表す部位と、空間や風を表す部首で出来ている。ジュのほうは、音を表す部位と、植物を表す部首と、声調やアクセントを表す部位で出来ている。


 西方の人にはそこまで知っている人のなかにさえ、実際に東方語を話したり読める人はあまりいない。書ける人は研究者以外は皆無と言っていい。それくらい、東方の文字や言語は西方にはなじみがない。現代の標準語である『統制語』がなかった時代にはどうやって東西で交流していたのか頭を抱えたくなる六人である。


「分かった、ハユハユ達みたいなのが通訳をしたりとか」

「ないぞ」

「「えー」」

「ついでに言っておくと、今わしに通訳をやれと言ってもせんぞ。出来んしな」


喋りながら、まず宿をとることにして、六人は適当な角で立ち止まって見まわした。この町への入り口は入ってきた一つと、南側の海に近い場所に一つ。それぞれの入口の周りに外部の人向けの宿屋と少々の店が並ぶ区画がある。

 あとは海まで伸びる「人」の字のような大通りに沿って店がある。あまり路地に入ると民家か、店があっても住民向けで言葉が通じなかったり対応が悪かったりする。住民の知り合いでもいない限りは、大通りから出ないのが定石だ。


 そこそこの宿をとって、まずは荷物を整頓する。買い出しをするために必要なものなどをメモしながらだ。折角だから魚を食べようと、食事や保存食はあえて海沿いまで出てから買おうと決めた。


 観光シーズンというか、日本のような決まった長期休みがないこの世界では、観光地はいつもいっぱいだし、そうでないときでも妙に人が来ているときもある。この町は安定しているようで、無理な客引きもいないし、空いてるからと接客が適当になる主人もいないようだ。逆にぎゅうぎゅうになって人が追い出されたり断られる様子も見当たらない。程よい感じだ。


「海のほうはどうなっておるかわからんがな」


 夏樹の肩の上でハユハユがスマートフォンを覗き込む。今は地図アプリなどではなく、メモになっている。宿の名前や目印、買い物の内容などが打ち込まれている。


「先にかさばるものを買っていったん宿に預かってもらったり部屋においてから食べに行こうよ。せっかく三、四泊くらい出来そうなんだからさ」


 フリューシャが提案し、特に異議は出なかった。だが、その様子を見ていたらしき通りすがりの人が、彼らに声をかけてきた。


「要件があるなら早く済ませて、明日の朝早くに、いいえ、すぐにでも西の門から出ていくべきです。」

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