不気味な集落 4
ミユルは吹き飛んだクリスティンには目をくれず、魔法具の指輪をひとつ指で弄びながら、飲み物をゆっくり飲み干しました。それから何事もなく返却口へカップを置いて店を出ていきました。
長耳族や碧眼の民は魔法の素質を持ちやすいので、やはりこの場のあちこちに伝統的な黒いローブを着てお茶をたしなんでいたり、壁際で小声でおしゃべりをしたり、あるいは一人で静かにたたずんでいたりと、取り巻きの生徒以外の大半を占めています。そんな人々の間に紛れ込んで見分けがつかなくなるまで、クリスティンは壁にもたれてしんなりしながら、虚空に向かって何かずっと語り掛けていました。
ローブ姿の人の中に、ハユハユの昔の知り合いである高名な魔術師ハルーミン・アルカディアが居ました。ハルーミンは周りのローブたちと話し込んでおり、しばらく六人と一体に気付きませんでしたが、一度六人と一体が外に出て別の用事をしてから食事のために戻るときに、店の外で互いに気付きました。
「とんでもないものに巻き込まれちまったんだねあんた達」
ハルーミンは魔法を紡ぐ話を持ち込まれた時、まさか発端となった「通りがかりの旅人」がフリューシャたちだとは思わなかったのです。いちいちどんな人がいたのかとか、依頼の際に聴かされるわけでもありませんしね。
申し訳なさそうに少し頭を低くするフリューシャと夏樹の頭に、ぽんぽんと彼女が手を置きました。
「まあいいさ。アイツもソイツもいて、もう二度と経験できないような魔法を紡げるんだ。あたしゃ魔導士冥利に尽きる、くらいにしか思わないさね。
それに、どうしても、こういう面倒な魔物に出くわすことは、珍しいけれどまったく起こらないことじゃあないんだ。
星の上にあるもの全部を知ってる者なんかいない。アーシェみたいな機械があっても、森の奥深くの魔物の巣や、海の底なんかを見通すことはできない。それどころか、この世界は未だに人の見たことのない場所がたっくさん残ってる。アーシェみたいな『世界地図』なんかまだまだ作れない。
だからあたしや他の魔術師たちに迷惑かけたとか、そういうことを考えなくていいからね。というか、考えるな。わかったかい?」
魔法をまとめる役の一員である波動生物ハユハユと案内役の猫獣人テトグを残して、フリューシャたちはあえてこの作戦から離れることにしました。
「データのお礼に、記録用の動画を後で夏樹のすまほに送って特別に見せてあげるさね。」
ハルーミンだけに見送られて、五人は再び東を目指して去っていきました。数週間後、待ち合わせた村に現れたテトグはたくさんの荷物を載せた小さな台車を引いていました。その荷物の上で疲れ切ったままのハユハユが眠っていました。