不気味な集落 2
結局、一行は引き返すふりをして集落を出ました。しかも、集落の人が見張っている気配がします。
「誰かわしをあの木に向かって投げろ」
ハユハユが小声で言いました。ちょうど、集落の人が隠れている木があります。ちょうど肩に載せていたシュピーツェがハユハユをつかんで、その木へ振り向いて、大きく振りかぶり、投げました。
「もふっ」
木にハユハユがくっつくのと同時に、隠れていた若い男が走って集落のほうへ逃げていきました。ハユハユは男の背中に素早く飛びつきました。そのままくっついているかと思いきや、まるで弾丸か何かのようにぼーんと勢いよく飛び出していって、シュピーツェのもとに戻りました。
「あやつ、人間じゃないぞ」
この世界で『人間』というときには、たいていは多口種・碧眼の民・赤眼の民・長耳族・ドワーフ族・砂漠の少数民族を示します。ハユハユもそのつもりです。
「あれは魔物の類だ。波動が、人間のどれとも違う。触った瞬間に分かった。全く同じ姿をしている者がおったのは、姿を写し取る能力か、分裂か何かやもしれん」
あの焼け焦げを調べられたくないのは何か関係があるのでしょうか。一行は集落を迂回するように、あの焼け焦げた場所を目指しました。少し離れた位置に野営地を定め、当初の予定通りシュピーツェとハユハユだけで、最もひどく焼けた木に近づきました。
大きく裂けた木の幹の根元にもたれるように、地面に座っているかのように、真っ黒な人だったものがありました。一人と一体はお祈りをしてから、夏樹に借りたスマートフォンで周囲の写真をじっくりと撮りました。
シャッターボタンを押すとそこそこ大きな音がするので、魔法で音を打ち消したりして、なおかつ集落のほうを注視しながら写真を撮っていきます。時間がかかります。
写真を撮り終え、木の幹を調べ始めたとき、ハユハユは幹の裂け目に何か落ちているのを見つけました。成人の印のピアスでした。持ち主と長老の名前や、受け取った日付が刻まれています。刻まれていた日付は百年以上前をさしています。
調べた限り、あの焼け焦げは自然の雷もあるけれど、ほとんどは魔法や魔物の特性など、自然のものではないことが分かりました。そして、その場にいる誰も、ピアスに刻まれた名前に覚えがありません。名前の響きも、フリューシャたちとエルージャの出身や、よく知っている集落や村のものではないようでした。
リャワの専門家にスマートフォンから音声通信をかけ、写真を送り、一行は一度本当に引き上げることにしました。
人に似た姿をとって人をだます魔物が居ないわけではありませんが、集落のもしかして全員がそうした魔物であるというのは、リャワの専門家が調べた限りでも記録は見つからなかったようです。
フリューシャたちが先に東のほうへ向かっているときに、スマートフォンに連絡が入りました。集落を乗っ取っている魔物の見当がつき、対処法を作成したため、協力してほしいという内容でした。