空白(フリューシャの場合)
長老の家を出て、久々の我が家。居間に入らず、長老からいただいたお茶缶をしまったらまた外に出た。樹を伝って、ダージュの家へ向かう。
若木の幹のような太い枝に腰かけ、彼の部屋の窓を軽くたたいて、窓が開くまで待つ。おう、と声がして、影が近づく。新しい家だから、多口種の家のような四角い枠にガラスがはまっている窓で、光の向きや強さできらめくのが僕にとって好きなところ。
もう夜なのに家から出た理由は、何となく両親と顔を合わせづらいから。三年間絶対戻らないと約束したのに、出発から二年もたたないのに戻ってきちゃったからだ。
お前はやっぱり間抜けなやつだって叱られるだろうか。母さんには泣かれたり呆れられたりするだろうか。
僕はとても暗い顔をしていただろう。ダージュも夏樹もすぐ気づいて、どうしたんだ、と声をかけてくれた。隠す理由もないから正直に言うだけだ。
ダージュと夏樹が励ましてくれたり、なるべく叱られないように印象をよくする作戦を考えようとしてくれた。そこに、ダージュの母親が寝る前に飲む水を持ってきてくれた。さすがに、帰らなきゃ。水のお礼を言って、さっと窓を閉めかけたけれど、ダージュの母親の手で、窓の動きが止まった。
「あなたたちは、試練の途中で諦めて帰ってきたの? 何か悪いことをしたの?……違うでしょう。
何か後ろめたいことはある? ここから旅をやめる? それも違うんでしょう?
ただ必要があって立ち寄っただけなのだから、二人に怒ったり悲しんだりする理由なんてないのよ。むしろ、きっと待っていてくれる。帰って、まずは巡礼を終えた報告をするの。そのくらいのつもりでいいのよ。そうだ、ダージュ、ナツキ、ふたりともついていってあげなさい。しっかりと役目を果たしてきた証人になってあげなさいな。」
僕は最大級のお礼を言って、すぐに一人で家に帰った。両親はまだ起きていた。まだ灯りがついた居間へ行って顔を合わせたとき、両親は僕を抱きしめてくれた。
翌朝、僕は、旅の話をしたいからと両親を誘って、ほかの三人を泊めていただいている喫茶店へ向かった。扉の隙間から、乳製品の香りと、嗅いだことのない独特な香りが漏れ出していた。
台風による停電(4日15:00前~5日02:00前)により投稿できませんでした。
最接近は昼ごろだったのですが、8時ごろから、夕方まで経験したことのないものすごい風が吹いていました。
次回は10日(月)に投下する予定です。