ひとまず、ただいま。
六人と一体は、『遺言』を伝えながら、アルネアメリアを経由して港まで行き、船で南へ渡りました。乗鳥は一度途中の町で返し、渡ってから借りなおして集落の近くまで走らせました。
森に入り、途中の行商人に乗鳥を託して、集落へ立ち寄りながら故郷を目指します。いくつかの集落には、既に『遺言』が伝わっているようでした。
森の奥、木々の間に隠れるように長耳族の樹上の家が見えてきました。いよいよ、出発した集落が見えてきました。入口に、フリューシャとダージュの両親と、近所の人が数人あつまっていました。最後に止まった集落から、通信で連絡を先に届けていたからです。
「お帰り、三人とも。お友達も、ゆっくりしていきなさい」
フリューシャたちは、荷物を彼の家に置くと、そばにある喫茶店で飲み物を一杯ずつもらって、長老に報告をするために三人だけで長老の家へ向かいました。
長老は、アーシェ人の夏樹も試練を受け『巡礼』をしてきたことに非常に驚きました。長老の近くにいる人はたまたま転移者のことを良く思っていない人ばかりだったので、長老はこの集落になじむ前に出て行ってもおかしくないだろうとか、出て行きたくなったらリャワにでも行けばいいとか、そのくらいのつもりでいたのです。
「かの地からの便りは届いておる。お前たちは、まさに時代の境目に立ち会ったのだ。ただ大人であるだけでなく、命ある限り新しい時代を生き抜く者であり続けてほしい。」
長老は付き人に何か頼みました。フリューシャとダージュへのお祝いの品です。フリューシャには、遠く東へ離れた集落で採れる珍しい茶葉がつまった小さなお茶缶。ダージュには、東方風の金属細工に宝石があしらわれた銀色の腕輪。長老は付き人がそれぞれの品を持ってきて渡したところで、夏樹へのお祝いの品を決めたから着いてくるように、と言って隣の部屋へ姿を消しました。
戻ってきた長老の付き人の手には、しっかりしたつくりの腰帯が載せられていました。長耳族のものらしく弓矢やナイフを帯びるためのものですが、馴染みのない夏樹は、電気などの工事の人が帯びている、工具を入れるベルトのようだと思いました。そのように使っても問題ない、丈夫な布地と丁寧なつくりの品です。どうしてその品なのかと夏樹が尋ねると、長老は、その腰帯ならこれから夏樹が使うことができるからだと答えました。
「すぐに渡せるものなら、私が持っている指輪や魔法具を渡してもいいが、それでは、それが壊れるまでお前さんに使い込んでもらうのは難しい。かといって、今この場でお前さんだけ何も持たずに帰すわけにはいかないじゃろうし、お前さんを良く思っていない者が妙な噂の種にするなどがあっては、わしは心苦しい」
お気遣い感謝します、と夏樹が改まって述べると、長老は三人に近くへ寄るように言い、寄ってきた三人の頭を撫でました。ダージュが不満そうな顔をすると長老はにこにこ顔になりました。
「さあ、最後の子ども扱いじゃ。黙って受け取れい」
三人は長老からの贈り物を文字通り手に持って、仲間が待つ喫茶店へ戻りました。
次回は8月~9月中に投下する予定です。他作品(カクヨムのほうや、ピクシブで上げている二次創作など)を進める以外にも、予定外にリアル予定(親せきや近所の都合)が詰まってしまいました。