『最後』の場所 1
何度目かの光で、場所を突き止めた。待っていると、地面が光った。小動物が駆け抜けていくが何もない。手を伸ばして地面に降れた夏樹は、数秒後視界が真っ暗になった。
穴が続いていた。人が少しかがんで通れるくらいの穴が見え、すぐ見える位置に、アーシェの二つ折り携帯電話が落ちていた。電話の着信のようだった。夏樹がそっと折り目を開けて、恐る恐る声をかけると、雑音に混じって
『拾ってくださったのですか?』
十代半ばくらいの女の子の声がした。長耳族ならもしかしたら百歳以上かもしれないけれども、その時の夏樹はただ、知らない女の子と電話で話しているという感覚しかなかった。
穴に落ちてすぐにそれを拾ったことを、夏樹がやや冗長な説明になりながら伝えると、女の子は、お礼に道案内をするからその穴を進んできてほしいと答えた。
穴の先? と不審に思いながら夏樹が歩いていくと、どんどん穴のサイズが広がって、壁を補強したまともな通路になった。
夏樹は女の子に断って、電話を切って急いで穴の入り口へ戻った。戻ると、心配そうにエルージャが覗き込んでいた。電話を拾うところは見ていないが、電話をする声は聞こえていたようだった。
「この先が遺跡につながってるかもしれない。とにかく、街があるんだ。これの持ち主が、案内してくれるって。」
エルージャは仲間を呼びに木こり小屋へ戻っていった。彼が戻ってきて穴を下りてくるまで、夏樹は土にもたれて眠り込んでしまった。
狭い穴を無理やりくぐらされて不満たっぷりの乗鳥をなだめ、引っ張り引っ張られながら、一行はどんどん広くなる通路を歩きながら、壁の様子を確かめた。
見た目新しい部分があるが、古い部分が壊れたのを修復してあるようだ。ただ、それは通路が、二人並んで通れるほど広くなってからだけで、あの穴に近いほうは、土を固めた上から何かで塗り固めであるだけのようだったし、壁の補強も含め、素材は西方で千年間広く使われているコンクリートである。
分かれ道で交代で眠りながら待っていると、あの携帯電話が鳴った。はじめに夏樹がしゃべった後一行は一人ずつ声を交わした。毎回夏樹を起こすわけにもいかない。
電話越しに教えられた通りに進むと、どんどん下へ下へ降りていく。そして、地下街があった。数百人は暮らしていると、電話の主はいう。地下街の中心に植物鉱石で出来た電波塔があり、根元に電話の主である女の子がいた。この町は、『巡礼』の目的地であるアル=カディアにつながっているという。
一行は数時間眠って、案内を受けた。複雑な迷路になっていて、とても一度で道順を覚えることはできなさそうだった。エルージャとふたりの仲間は、フリューシャと一緒になって、夏樹のスマートフォンを御神体か何かのように崇める始末だ。女の子は覚えるコツとして曲がり道の規則を教えてくれたが、その規則が十分に複雑だった。
町のはずれのほうへ進むにつれ、通路が鎖や扉でふさがれている頻度が増えた。天井の高さも町と違って背丈ほどの低さに戻った。小動物や虫の死骸が落ちているし、壁の修復が丁寧になっていった。素材もあの植物鉱石が混じってきた。壁や扉には、へこみや側に落ちている欠けた武器など、破壊しようと試みた形跡や痕跡があった。
「別に、何もしなくても、手を当てて深呼吸すれば開くのよ」
女の子は言うが、まさかこれだけ念入りに置かれた障害物がただ素手で触るだけで通過できるなんて誰も思うまい。仕組みはわからないが、古代の技術らしい。アーシェの指紋認証のような、何か細かいものを検知しているのだろうなどと話をしながら進む。
途中に、再び小さな町のような、人が暮らす場所があり、そこに、女の子の知り合いがいた。夏樹やフリューシャたちの前に、ここにたどり着いたパーティだった。全員が長耳族と多口種のハーフで、実年齢で言うと三〇歳くらいだった。一人が感染症にかかっていて、足止めを食らっていたのだった。
女の子は、あの地下の町で生まれ育っていて、つい先日パーティと知り合ったところだ。長耳族のほうが濃くて、実際の年齢は八〇歳だった。
ひときわ巨大な、細かいレリーフが彫られた、古代遺跡らしい雰囲気の扉があった。
次回は29日に投下します