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巡礼 37日目

 街へ近づくと、かなり手前から、広範囲の地面が人為的にならされていた。見回すと、出発の時の道と違い、ならされているのが道を作るのに必要な部分だけではないのがすぐに分かった。舗装や、建物の土台か何かで石が見えている場所も少しずつ増えていった。


 コンクリートで造られた門のようなものに、朽ちた縄が張られていた。地球の現代のそれと違う、少し土色をしたコンクリートは夏樹には昔々の土壁か何かのように見えた。


「主に高地でとれる岩を削ったものと石灰と、アメリアの砂を混ぜて作った建築素材だ。アーシェだとええと、コンクリート、かな。」


 門の比較的綺麗に残っている部分をぺたぺた触りながら、フリューシャが言った。長耳族の間では長く『硬い砂』と呼んでいた。




 門を抜けると、誰もいない町があった。入るときから人の気配はない。

 近づいて分かったが建物は長い間使われていないようだった。空き家独特の空気感というか匂いというか、それで夏樹は、この町が自分の先祖のいた田舎の町のようだと思った。テレビの映像で出てくる、昭和の時代の団地やマンションに似ている。一軒家は一軒家で、一つの手本をもとに少しずつ変えたもののようだったし、十棟以上整列した巨大なマンション群はすべて同じ建物に見える。


 マンション群に近づくと、建物を囲むように二メートルほどの高さの壁が隙間なく作られていた。建物と同じコンクリートでできている。


 さらにその壁を取り囲むように新しい柵があった。定期的に人が来ているのだろうか、柵は立てた後に何度も手をくわえられた様子がある。『崩落の危険があります。立入禁止』という看板が柵に据え付けられていた。

 そうした注意喚起などの看板には国際機関のマークが入っていた。山脈の高地に生えるといわれる、世界樹の幼木の枝に星印(*)の形をした六色の光が実っているデザインだ。

 朽ちかけ表面が黒く不気味な色になったマンションは午後になるといっそう気味が悪い。


 マンション群を抜けると、これまた画一的な家が並ぶ住宅街が作られていた。住宅は崩れそうなほどいたんだものは少なく、マンションよりは新しく見える。

 しかし、夜を明かすために外観が整った住宅に入り込んだが、かかっていたカレンダーは一八年ほど前のものだった。家具もそれくらい前に流行っていたデザイン様式だ。それ以上新しいものはなかった。

 アーシェの学習机のような、棚が作りつけられた巨大な机があり、製作年代が彫られていたが、三〇年以上前だ。古いものは別の家に二〇〇年ほど昔の重厚な飾り棚があったりしたが、結局どこを見ても室内にさっきのカレンダーよりも新しいものは見つからなかった。




 翌日、一行は気晴らしもかねて乗鳥でざっと町を見て回った。町の中心には広場があった。広場を囲むように住宅街があり、南東にあのマンション群、南と東に畑の跡、北西側に何重もロープを張った妙な空き地があった。空き地の先は、元はあのマンションを囲うような分厚い壁でふさいであったようだ。壁の残骸がすり減ってオブジェのように点在しているだけだ。


「『西の壁』だ。本当にあったんだな」


 ダージュが言った。北西地方には、巡礼に関係する長耳族の集落の他には、街は二つしかなかった。その街には、野生動物と外部の人間を避けるためと言われる壁が築かれた。街は千年以上昔に一度病気で滅び、その後、アメリアや北方の国などが、罪人を追放して閉じ込めるのに使った。その際、罪人たちが逃げないよう、元からあった壁を包み込むように、壁をより大きく、より強く増築した。街で生まれる子もあったが、街の外へは出られない。


「つまり、ほぼ北西の端まで来たってことだよね」


 エルージャが少しいらだちを含んだ声をダージュに投げた。北へ上り過ぎているのだ。


「北もそうだけど、西へ寄り過ぎてたんだ。いつからかわかんないけど。それが分かったんだから引き返そうぜ。観光できる街じゃあねえしさ。」




 正午にならないうちに一度食事をとり、一行は町だった場所を離れた。夏樹のスマートフォンで場所を見ながら、ある程度来た道を戻っていき、植生が切り替わっている場所を辿り、決まった範囲からそれ以上外れて行かないように確認した。


 人が最近立ち寄った形跡のある小さな森を見つけた六人は、森の中にあった木こり小屋で夜を明かすことにした。陽が落ち切らないうちに準備を整え、疲れ切っていたからか全員早くから眠りについた。


 真夜中に、夏樹は目が覚めてしまった。妙に目がさえて眠れない。ふと、小屋の窓の外、何もない森の中に明かりが見えたような気がした。暗くなる前に軽く見回った限り、人が残っている様子はなかったし、光るような虫や動物もいないはずだ。

 夏樹には、魔法の練習の際に出る光の線に見えた。ますます、ありえない。夏樹自身もそう思いつつ、じっと窓の外を見つめる。数分後、一瞬ふわっと明かりが見えた。一瞬だけ携帯の電源を入れたときとか、懐中電灯のような小さな光をわずかに使った時のような、それほど強くなく、しかし手元だけなら十分に見える明るさだった。


 夏樹が外に出て確かめようと思い身支度をしていると、エルージャも目を覚ました。そして、二人の前で、またふわっとした光が現れた。二人は最低限の装備をして、小屋の外へ出た。

次回は22日に投下します

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