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すれ違った同僚を全員覚えている人はたぶんいない 1

 フリューシャたちが、シュピーツェとアクヴァの退院を知って一〇日ほど経った頃、そのシュピーツェたちは、山地の広大な森の中にある隠れ里にいた。


 アクヴァの仲間は南部と砂漠地帯を除く大陸のほとんどに、隠れ里や集会場のような集まりを持っている。二人は、それを転々と辿っている。もちろん、追われていないことを確認しながらであるし、四人組の隊商ということになっている。

 公式的には、アクヴァが昔別れた親類の一人がシュピーツェかもしれないので、その親類を知っている者のところへ行って確認するということになっている。

 シュピーツェのタグは偽れないが、アクヴァはいくつもの身分を持っているらしく、動きやすいように行商や旅人、あるいはそれらの遺児という身分を使い分けている。


 今回その里を訪れたのは、アクヴァに情報をもたらした者がいるからだ。その里に、十年以上前にシュピーツェに似た人と行動を共にしたことがあるという者がいるらしい。仮に似た人ではなく本人だったら、その時の名前や身分は、過去を知る大きな手掛かりになる。


 二人が会いに行った者は、若いころ傭兵をしていたという。足を失って引退し、時折後方から指揮するよう呼び出されるのを二十年間ほど繰り返したのちに願い出て国を去った。


 大きな戦争は百年は起きていないがツァーレン国境付近の小競り合いは数年おきに起こる。二十年ほど前にはツァーレンとアルネアメリアとの小競り合いに、やや中央平原寄りの貴族領が絡んで面倒な戦いになったが、三国以外への影響は少なくて済んだ。


 その二十年前の戦いでアルネアメリア軍の中にある不正規の部隊にいたのが最後だと、その男は語った。長耳族と多口種の子で、当時はまだ成人の儀も済ませていないどころか、本当なら上級学校に通っていてもおかしくない少年だった。まともな軍なら国際機関に『子供を不正に働かせている』と注意を受ける前に後方に回すなり除隊するなりするはずだが、見た目と実年齢が壮年だったので目を付けられることもなかった。本人も停戦まで働いて、兵士として最先端の義足を安い値段で付けられて、定期メンテナンスまで受けられて満足だった。


 いくつか武勇伝を話し、男はシュピーツェ以外を全員退室させた。


「その『不正規の部隊』は、単に正規の軍人じゃないってだけじゃなかった。冒険者や旅人を傭兵として雇っても、やましいことでもない限りは彼らはまともに正規軍の部隊に配属されるからな。

……『不正規の部隊』ってのは、ほとんどが『居ない者』扱いだったんだ。」


 単に部隊の公的な記録がないとか、指揮系統から外れているという意味ではなかった。集められた彼らは、非人道的な実験台にされたり、非合法な戦術の行使をさせられた。


 例えば、条約で禁止された兵器の研究を行う班があった。百年ほど昔に広大な中央平原の半分を居住不可能にした化学爆弾の資料を、投下した国に潜入して探ったり、落とされた場所の土壌の回復の度合いを調べたりしていた。

 敵の拠点に化学兵器をばらまく役目を与えられた班があった。実質その場で自死せざるを得ない、死ぬための班だった。


「そういう班の中に、人体実験を行うところがあった。劇薬や他の班がつくった化学薬品を投与して影響を見たり、死体や重傷人で腕や足をつなぐ実験をしていた。そういう実験をしていて頭がおかしくなったやつを使って、脳外科や精神的な調べものをやるヤツもいた。」


 その人体実験班に奇形の両性族がいた。『親父』というあだ名がついていた。どっかで捨て置かれていたのをさらってきたとかそんな風じゃないかと男は思った。二十年以上いて、姿が変わらないのだという。

 両性族は多口種の半分ほどしか生きないし十二、三歳からずっと姿が変わりにくい。死ぬ数年前にようやく、ほかの種族と同じように筋肉が落ちてあちこちの皮膚にしわができるし、頭髪も薄くなるけれども。


 だがその『親父』は足の変形で這うことすらできないのに、全身の筋肉が落ちていない。調べたところ年齢も八十歳近くだから、多口種でもだいぶ年老いているはずだ。だが、調べたところ多口種や長耳族の血が入っているわけでもない。原因不明の謎の変異を持っているのだ。


「軍はその『親父』と様々な種族の間に子供を作らせ、記録を付けた。生まれた子はすぐに正規軍の兵士に養子に出されて、育てられた。何か有用な特徴があればそうした子から検査と称して精や卵を集め、交配したようだ。俺はそうやって生まれた一人だ。そういう『親父』の子孫は時々回収され、実験台にされた。

……俺は下級兵士の養子として育ち、あるとき義足の治療のあとに実験場へ連れていかれて、それを教えられた。それまでは、単に両性族の血が入っていて引き取り手がおらず施設にいたと聞かされてきた」


 彼は『親父』のおかげで、義足の移植への拒否反応が出ないという特徴を得た。逆にあまりにひどい奇形の子が生まれ、おぞましい実験台になることもあった。


「奇形や障害をかき集めて特性に合わせた単純労働させるツァーレンのほうがずっとマシだと思えるくらいだった。

 建物を出て解放されるまで、そのまま俺も実験をさせられるか実験台に転向するのかと思った。」

次回は明日投下します

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