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巡礼の遺跡ふたつ目

 遺跡に入った一行は、広い空間を探して内部へ進んでいくことにした。最初の空間は六人立っているだけでいっぱいになり夜を明かすには狭すぎた。その狭すぎる空間に乗鳥を三頭繋いで、これまた細い通路を壁を伝うようにしばらく進む。急な下りになっていて、整っているくせに進みにくい。通路の先に何かひらけた場所がある。


 先の遺跡の商店街のような、縦横高さ全てがあまりにも広い空間だった。通ってきた道は本来は非公式的に街への侵入者が作ったものなのかもしれない。『店』を一か所ずつのぞいてみるが、埃と植物鉱石の欠片が転がるばかりだ。先の遺跡のような、ごく最近に誰かが何かを使用した形跡は見つけられなかった。


「本当にここに誰かいるのかな。それとも、もっとずっと奥なのかな」

「いけるところまで、探してみねえことにはわからんな」


 軽い愚痴や見たものについて適当にしゃべりながら、出来る限り先へ進んでみる。奥まった場所を見つければ、壁に仕掛けがないか確かめ、念入りに触れてみる。

 地下へ降りる階段を見つけ、その先に同じような『商店街』があるのが分かった一行は、休みながら念入りに1階ずつ調べながら、何階も降りていった。三階ほど降りたところで、地図を書いていた夏樹ともう一人の思い付きで、別の出入り口を見つけて、戻って乗鳥を連れ戻した。


 前の遺跡も、本来は同じように何階か、何層かあるはずだったんだろうか。誰かがそんなことを言い、他の者もうなずいた。



 何日かかけ、もう一〇階は降りただろうか。『商店街』のど真ん中の広場の何かの台座に、若い男が腰かけていた。男は、古めかしい様式の魔導師のローブや魔道具一式を身に着けている。それこそ、成人の儀を済ませたばかりではないかと思うくらいに若いのに、ローブの裾はひどい破れやほつれだらけで、大きく裂けているところが一か所あった。


「なんでわざわざこんな奥にいるんだよ」


 エルージャの仲間とダージュが文句をぶつけた。男は大きなため息をついて立ち上がり、数歩近づいた。


「お前たちみたいのを相手にするのが……面倒くさいからだよ……」


 男が魔法を使おうと魔道具に息を吹きかけたところで、す、と男に向かってアウトドア用のステンレスカップが差し出された。夏樹が持ち込んだアーシェ製である。ふわりと香草の香りが男を驚かせた。




 あらかじめ茶葉をパックに入れておいた即席のハーブティで互いに落ち着くと、ダージュたちは適当に座り込み、男も元の位置に戻った。


「俺たちみたいな、遺跡に住んでるやつは皆、君たちの最終目的地である、伝説の町『アル=カディア』で生まれ育って、散らばっていくんだ。立ち寄った集落の奴も、もともとはアル=カディアに居た奴と、その集落で生まれ育った子孫ばかりだった。昔は修業として故郷を離れてこのあたりで暮らす修行の身も多かったようだが、今じゃ珍しい。」


 男は話しながら、全員のピアスに紋様をつけていく。


「試練とか試験はいいの?」

「別に。外の世界じゃもう魔法は家事用くらいしか使わないんだろう? だったらこんな修行なんかより、実際に使って身体にしみこませるほうが、確実でいいだろ。

……それに、こんなとこまで降りてきただけで充分だよ」


 男は魔法で設備を動かし、エレベーターで一気に地上に近い階まで送ってくれた。そこで、伝言の魔法が届いた。妖精のような姿をした煙が、ぶわっと男にかかった。


「君たちは、試練を終わらせたいか? それなら急ぐべきだ。どうでもいいなら、逆にゆっくり進むといい。俺にこれが届いたということは、もうすぐ、巡礼はなくなるか、本当にただ巡るだけになる。

 理由や伝言の中身は話せないけど、これくらいは、オマケしてもいいか。……もういくつか回ってる君たちなら想像できる範囲内だろうし」


 少なくとも、フリューシャとダージュ、エルージャには想像できた。ただ、二人は急ごうとしたが、エルージャは逆にのんびりしたほうが色々楽だろ、と笑っていた。

次回は5月14日に投下します。

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