巡礼の遺跡ひとつ目
開いた先には二、三メートル四方の小さめの部屋があった。壁は他と同様の、植物のような鉱石のような不思議な素材で出来ていて、磨かれた石のような光沢のある表面をしていた。
それが突然小刻みに揺れだし、数秒後止まったかと思えば下へ下へと動き出した。エレベーターだったのである。いくらアメリアのような大きな国では珍しくないとはいえ、この世界では常用する人は少ない。まして、森林に隠れるような集落出身の長耳族となれば、若者でも気持ちの良いものではない。
腹の奥が少し不快になりながら、一行はどれくらいか、地中深くへ運ばれて、エレベーターを降りた。細く伸びる通路へ出た。通路には行き止まりまでのところどころに扉があり、行き止まりの壁には大きな扉があった。エレベーターからすぐの扉だけ、誰か触れただけで開いたが、エレベーターより少し広いくらいの部屋で、空っぽだった。あとは触っても押しても引いても開かなかった。
行き止まりの大きな扉の前まで来たとき、その扉は勝手に開き、その先にあるものが少しずつ見えた。巨大な空間だった。人がいれば、商店街か大通りか、そういうものに見えた。
見えないほど先まで、店のような場所が続いていて、奥から長い白髪と白ひげを結った高齢の長耳族の男が、滑るように近づいてきた。床から浮いた奇妙な乗り物でホバークラフトのような丸い浮いている部分に座椅子のような座席があるだけに見える。科学的なものなのか、魔法で動いているのか、両方なのか、フリューシャたちには誰一人、全く見当もつかないのだった。
六人ともが口を中途半端に開けてぼーっと立っていると、白髪の長耳族はくっくっくっと肩を揺らして笑った。
「君らより前に来た者らは、驚くたびに歓声を上げて、実に賑やかだったよ。驚くことが多すぎて、終いには黙ってしまったがね。」
白髪の長耳族はエルージャを見て、その時にいた者にそっくりだといい、エルージャはそれがおそらく自分のいとこであると話した。
「わしはもう、先が長くない。ここで待ち続けるのはやめにしたところだ。どんな素晴らしい魔法の力があっても、いのちを伸ばし続けることはできんでな、この機会に、自由にさせてもらう」
白髪の長耳族が奥へ手招きすると、話に出てきたいとことその仲間数人が、似たような浮いた乗り物で近づいてきた。白髪の人が乗っているよりも素早い乗り物のようだ。彼はエルージャとの再会を喜んだあと、話を切り出した。
「俺はここで、遺跡の生きている機械を調べ、まだ生きているこの文明を復活させるんだ。ただそのままこの遺跡を使うだけじゃない。例えばこの、木のような石!これをどうやって手に入れたか、どうやって加工するかが分かれば、より複雑で精巧な建造物が実現できる」
「おれは機械を調べてる。ゴーレム作りと組み合わせれば、アーシェでも作られない、でっかい『ロボット』も作れる。そうしたら、魔物で人が死ぬことも減らせる。」
「わたしはこの遺跡を、災厄や大津波のときの避難場所の参考にできないかと思っているの。アーシェの地下街のつくりと合わせて、いつか何が来ても身を守れる場所を作るわ」
エルージャのいとこはフリューシャたちと語り合い、食事をふるまったのち、急にかしこまってあいさつした。白髪の長耳族と一言話し、六人に並んで立つように言った。
「一応、帰りに寄ったときにしっかり言い残してきたけど、俺たちがしっかり生活してるってことを、村のみんなにしっかり伝えてくれよな!」
エルージャのいとこは一人ずつピアスをつまみ、呪文を唱えてから離した。それから、触れていた場所を人差し指でなぞった。六人はピアスのあるほうの頬が一瞬温かくなったのを感じた。
仲間が差し出す鏡を見ると、ピアスに新たな線が刻まれていた。これまでの黒い一本線と異なり、複雑な紋様で出来た太さのある線だった。
「これでよし。」
エルージャのいとこが満足そうにふん、と鼻息を鳴らすと、彼の仲間の一人がやってきて、今からだとまともな場所につけないまま夜になるから一泊したらどうか、と提案した。実際に六人が一度外へ出ると、空の色が夕焼けに染まりつつあった。六人は厚意に甘え、場所を借りて野宿と同じようにテントを張った。
一六日目となるその日、外が見えないせいか、六人は寝過ごした。エルージャのいとこたちと遅い朝食をとり、腹が落ち着いてから出発した。
次回は今月末~大型連休後に投下する予定です。