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巡礼 15日目

 巡礼の地である大陸の北西部には、国も村もなく、先の集落のように隠遁した老魔術師や逆に修行の身などの数人だけ暮らすかたまりがあるだけだ。


 人がいないのは、超古代の戦乱の主戦場となり、長く不毛の地であったことによる。遺跡は、最新のものでも一万年くらいは前のもので、もう、長老格でもないかぎり、稼働していたころを知る者はない。

 しかし、長耳族に伝わる古い魔法は、古代の言葉や呪文を起源としており、中で魔法を使ったり、呪文の練習をすると遺跡が動く。魔術師の中にはそうした遺跡の奥に隠れて暮らす者がおり、彼らに会って話を聞くことで、最終的な目的地である、古い時代の町の場所が分かるのだ。


 途中をどれだけ省略しようと、簡略化しようと、最後の古い町へ行かなければ成人の儀は完成しない。




 一行は遺跡の近くの樹に乗鳥をつなぐと、遺跡の入り口を探した。埋もれかけた扉のようなものの一つに、作動した形跡があった。フリューシャたち三人が冒険者の町で覚えた定型文を唱えると、土ぼこりを上げながら扉が動いた。


「ほんとに、古い遺跡はみんな長耳族の先祖のものなんだね。あっちの遺跡と同じ言葉で動くし、ほら、中は結構似てる」


 夏樹が警戒しながら中をのぞく。罠などはなさそうだが、いくつも扉らしいものがあるのにどれも開きそうにない。開いた形跡が見られるものが二つあったが、先ほどの定型文でも反応しない。知っている限りのそれらしい呪文を唱えても、ぴくりともしない。力任せに開けようとしてももちろん動かない。


 そのうち誰からともなく喉が渇き、そのまま休憩することにした。フリューシャが薬草茶を淹れると、入れた数種類の薬草の香りが湯気と共に広がる。

 空気が乾燥しているし、砂っぽい場所を通ってきたからと、喉の通りを良くしたり、荒れを鎮める効能を中心にまとめたお茶は、ミントのような爽快感がある。


「ただ中を開けて話を聞くだけだって言われてたのに」


 エルージャが大きなため息をついた。本来は、試練の内容や巡礼中の行動を未成年者に話してはいけない。厳しい村なら子供ごと追い出されることもある。フリューシャの集落はそこまでではないが厳しいほうだったので驚きが顔に出た。


「ん? ああ、二十上のいとこが、隣村の友達と旅に出たんだよ。帰ってきたときに、何をしたのかこっそり話したんだ。」


 いとこと友人たちは、なんと十人で旅に出たという。隣村は行商人の子が多く、本当に本格的な行商をしながら回って、ピアスのラインは最低値である二本、さらに北方の一番最終目的地に近い村から乗鳥車でかっとばした。お金パワーである。

 話しているエルージャ自身もあきれるやら驚くやらで、まして厳しめな教育を受けたダージュは彼らを狡猾というか、インチキだと言った。


「ま、一応車も自分たちで木材も車輪も用意して組み立てていったらしいから、それで大人たちを納得させたらしいよ」


「あ、機械とか使っちゃいけないんなら、僕のスマホもだめなんじゃ……」


「それ言い出すと、ラジオの天気予報とかダメになっちゃうし。『すまほ』は空も飛ばないし走らないし、魔法も出ないからいいんじゃないかな」


 ついでに食事も取りながらいつのまにか談笑していると、動かなかった扉が動き出した。全員、荷物をさっと持って扉を抜けた。誰も、なぜ開いたのかわからなかった。

次回は明日投下します

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