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巡礼 2日目~

 二日目は一日雨模様だった。三人は昼間の少し雨が弱い間に野ウサギなどを狩って、洞窟のそばで処理して過ごした。皮を縫い合わせて即席の防寒具をつくり、羽織った。それをもとに、三日目を丸一日つかって、しっかりした防寒具をつくった。




 四日目の朝、三人が目覚めたとき雨は上がっていた。昼になるとだいぶ青空が広がっていた。ようやく、先へ進むことができそうだ。退屈だったのか、乗鳥たちが先走りそうになる。ここで好きに走らせると、荷物を載せてどこかへ行ってしまうだけだ。仕方なく、荷物の積み方を変え、三人は鳥に乗り、抑える。

 それでも足が早く、三人は予定よりも早く、集落に着いた。魔物や動物避けの棘や尖った葉を持つ低木が塀のように取り囲んでいる。


 集落は、素朴というか、本当に木々と草と石でできた家が六軒固まっているだけだった。実際に人が住んでいるのは現在は半分で、あとは巡礼者が使う用に空けてある。元々は五軒住んでいたらしい。

 住んでいるのが全員長耳族の高齢者ばかりなので、過去の話は話者が「少し前」と言っても、実際は三人が想像する「少し前」よりずっと昔の、新しくても数十年も前の出来事だったりする。


 集落のことや、周りに現れる動物や魔物のことしか、口をきいてもらえない。直接の手助けはいけないという巡礼の約束事だ。だから貸してくれると言ってもただ開けてあるだけで、掃除も何もしていない。

 例えば、気候的に冬に巡礼する人はほぼいないので、暖かくなってすぐに来ると、最低半年使われていなかったところを使うので埃を払うだけで大変だ。

 三人の場合はむしろ、予定がひと月以上遅れると一番寒い時期に北端に滞在することになる。その場合は途中で防寒具を追加する必要があるだろう。


 その夜、集落に別の巡礼者がふたりやってきた。荷物は着の身着のままのほかは腰に下げておく小さな鞄だけだった。ふたりとも長耳族の男で、片方は左膝があらぬ方向へ曲がっていた

 半日ほど先のあたりでやや強い魔物に襲われたのだという。ふたりは七人パーティのうちの二人で、一人が倒れ、四人で応戦中だという。




 五日目の朝早く、フリューシャたちは足が無事な巡礼者の案内で現場まで乗鳥で駆け付けた。魔物は既に死んで灰になっていたが、その場に生きているのは一人だけだった。

 死んだ者の埋葬の為、長耳族たちで土の魔法で少し外れた位置に穴を掘った。死んだのはリーダー含む五人と乗鳥が一頭だった。

 穴を掘っている間に、足の悪い巡礼者と夏樹は遺品を集めた。成人の儀の証であるピアスと、いくつかの装飾品や日用品を一人分ずつ、それぞれの旅荷物を入れていた鞄に集めておく。


 残った三人は、フリューシャたちと合流して旅を続けるかどうか話し合い、次の集落までの間は合流すると決めたようだった。足の悪い巡礼者が指笛を拭くと、遠くから乗鳥が五頭走り寄ってきた。一頭は、死んだ乗鳥が埋葬されたあたりを撫でるように頭をこすりつけた。


「ああ、あいつ、埋まってるヤツとつがいなんだ。ああなると半日以上動かないだろう。俺たちが先に行っても付いてこないようなら、可哀想だけど置いていくしかない」




 集落に引き返し、六人は出来る限りの治療と、荷物の整頓と、互いの紹介をした。亡くなった仲間の遺品は、ピアス以外は戻るまで集落においてもらい、帰る者があればその人へ託して集落へ届けてもらうことにした。ピアスは紐を通し、新しいリーダーとなった青年エルージャが首からかけた。彼らはフリューシャたちの集落フリカよりもさらに森の奥にある村の出身だった。


 回復魔法担当が死んでしまったため、六人にはフリューシャとエルージャの薬草の知識と、夏樹の応急処置しか手立てがない。負傷した青年ファグーシャの膝の向きを戻しつつ、薬草茶の鎮痛効果に頼るのみである。夏樹がスマートフォンで包帯の縛り方を見ながら添え木を縛り付けて固定すると、エルージャたちが他の縛り方を見せてくれたりした。


 話を聞くと、エルージャとファグーシャは103歳で、三人より年上だった。元々のリーダーの100歳の誕生日に出発して、主に東方を旅してきたらしい。彼らの村では、成人の儀は巡礼も込みで五~十年帰ることは許されない。受ける試練も魔法の試練を重視する。

 魔物の襲撃から一晩生き残り重傷で眠っているムエーリアは、長耳族では珍しい剣士で、魔法で炎や風の力を付与して戦う。エルージャの妹で、パーティの中では彼女だけが女性だ。


 七人のうち最初に死んだ一人は、視覚外から突然現れた魔物に魂を食われて即死。六人は距離をとって魔法で応戦した。すると、魔物も魔法を使い、それがファグーシャの足に当たって足だけおかしくなったという。リーダーは乗鳥の扱いがうまく足も速いエルージャに、ファグーシャを乗せてこの集落まで戻り、後続の巡礼者がいたらしばらく迂回するように伝えてほしいと言って逃がした。


「突然出てきて魂を食う魔物なんてどうやって対処しろっていうんだよ」


 エルージャがこぶしで自分の荷物を殴った。該当の魔物は数種類知られているが、どれも、遺跡や洞窟の中か夜間の森に現れる。フリューシャたちは冒険者の街リンデにいたときに遭遇しそうになったことはあったが、夕方の森で、他の冒険者たちが大勢いたのもあって犠牲者は出なかった。


 夏樹がスマートフォンの日記を見返すと、

『魂をとる亡霊が出たときは、素早いのでとにかく逃げる。注意としては、魔法の風や転移で逃げてはいけない。魔法で倒すには、一撃で倒せるくらいの威力をぶつけないと意味がない』

という記述があった。


 エルージャは血の気が引いた顔で、ムエーリアの寝顔を見た。彼女が剣士でなければ、そのまま魔法を撃ち続けていつか詰んでいたかもしれない。




 六日目は大事をとって、二人の傷の回復にあてた。七日目の朝、三人+三人は出発した。

次回は月曜に投下します

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