巡礼 1日目
地球なら二車線ほどありそうな、幅の広い舗装道路の脇で、フリューシャと夏樹とダージュは立ち止まった。最初の休憩である。フリューシャが水筒から茶をわずかに注ぐ。もう飲みなれた彼のブレンドティーだ。
湿らす程度に口に含み、ゆっくり少しずつ飲み込む。そして、乾燥を防ぐため、バンダナで口を覆う。前に砂漠近くまで行ったとき以来だが出発前に練習しておいたので手間取ることはなかった。
この舗装は五キロほど続いていて、ちょうど半分あたりか。また出発から一時間弱。天候も暑すぎず寒くもない。一日歩き続けるわけでもなく、立てた予定にはたっぷり余裕をもたせてある。まずは、この舗装を抜け、その先の、舗装されていない、ならした状態の地面をできるだけ進むという予定だ。
ならされた地面は舗装の倍くらいあり、その先は、ならされていない、昔の石の舗装の跡がばらばらに残っている。長ければ数百メートル、短いと一メートルもない、石の道の跡。
そこまで来ると、その脇に先人たちの生活の跡が残っていることがある。たき火の跡や、木やわらで作った小屋だったものなどがあり、そのあたりなら、火を焚き続ければ魔物は入らない。冒険者の時代なら、魔物よけの魔法が便利だが、術をかけ続けるだけの魔力と体力を残さなくてはいけないし、しょっぱなから一晩中起きているなんて考えたくもない。
確実な情報を手に入れた集落までは、一日めにはつけそうにないと三人は話し合っていた。少し前に巡礼から戻ったという人が、自分たちが最初に夜を明かした場所を教えてくれたので、そこを目指すことにしている。
昼を過ぎると天候が悪くなると朝に映像端末で流れていたので、その場所まで着いたら、さっさとそこを整備して休むのが妥当だろう。
方角や自分の位置を間違うと悲惨だということで、夏樹のスマートフォンはしっかり充電し、さらに最近一部で売られるようになった充電器を買えるだけ買ってある。普段は電源を切っておいて、位置情報のチェックなど必要な時だけ使う。舗装のない部分は、目印なども極端に少なく距離感が狂うので、予定や自らのペースを乱して早く歩きすぎたり逆に遅すぎたりするものも珍しくない。
三人は用心して、抜ける前に天候が変わることを考え、時々道をはずれて雨宿りできそうな場所を確認しながら進んだ。
何度めかの休憩。海沿いを通っていることもあり少し肌寒くなってきたから、早いけど雨をしのげる場所を探すことにした三人。フリューシャが砂浜に立つ小屋を見つけたので、三人は崖の下へ降りて、小屋へ向かって急いだ、小屋はぼろぼろで、屋根が飛んでいるし、小屋のなかが全部潮でやられている。波がここまで来るのだろうか潮が満ちるのか、とにかく寝床には使えそうにない。
その代わりというのでもないが、降りたことで、崖のところに洞窟がいくつかあるのを見つけることができた。三人は潮の満ち引きや波が入った様子がないことを確かめて、本日の寝床にすることに決めた。
寝床が決まれば、夕飯を確保したいところである。フリューシャが魚を釣ろうと提案し、魚より肉がいいとダージュが文句を言う。
「崖の上へ戻れば、羊やイノシシの仲間が取れるだろ。なんなら、俺が自分で取ってくるし。」
「ええー。イノシシは危ないから僕は嫌だよ。手間もかかるし。その間に濡れたらいきなり体力激減だよ? 野ウサギで充分じゃん。少しなら僕でも肉取れるからちょっと多めにとって干し肉作るとか鍋にして明日の朝のぶんにもできるじゃんか。」
「僕、木の上は何ともないけど、崖の上とか途中ってイヤなんだよ。二人は平気なのかい?あんまり何回も上り下りしたくないんだ」
三人は少し言い合いをすると、誰からともなく、ぷっと吹き出してしまった。そのまま三人で、声を上げて笑い、地面を転がった。
すでに雲が少し濃くなっているので三人は野ウサギを仕留めて食べた。毛皮はしかるべき処理をして床に敷いて使うことにした。
次回は4月中に投下する予定です。