三人と、二人と一体 1
成人の儀の旅自体は、仲間がいてもよいが、北西の通称『巡礼の旅』は成人の儀を受ける本人たちのみで往復せねばならない。北西の、国のない広大な空白地域の最南端にある、非干渉地帯(ツァーレンの国境付近)の関所で、五人は分かれることになる。
その手前の町で、あえてフリューシャたちは、三人だけで過ごすことを決めた。提案したのはフリューシャで、ダージュも夏樹も賛同した。とくに夏樹は同様の提案をするつもりだった。
二人と一体とは別の部屋を取り、三人だけで話し合い、買い物に出かけ、支度を進める。三頭だけの乗鳥を見ていて、フリューシャと夏樹は寂しさを覚えた。ダージュも、寂しくないわけではない。
そこは、ツァーレンに入らないあるいは入れない人々が多くあふれかえっている、割と大きめの街だ。大通りが一本あり、店が集中しており、それを囲むように、宿だらけ。全て、住む家と一体になっており、ただの民家というのは数軒しかないようだ。
街にやってくるのは皆、アメリアの北にある山を越えたり、ひたすら高地と中央平原を超えて迂回してきた人たちで、ツァーレンには何か言いたいという者も少なくない。
あの国には、他口種しかいないことになっている。転移者もいない。希望ではない、偶発的な転移があると、来た人は追い出される。戦争時代や、もっと昔のように、周りに攻め込んだり、恐ろしい武器を隠し持っていたりはしなくなった。だが閉鎖的な政策は緩くはならない。
多少、外国人でも通してくれるようになったとは言うが、通り抜けるまでずっと監視と目隠しというオマケが付いてくるのは大きい。
転移者と波動生物と獣人と長耳族と種族ハーフという、あの国が嫌う者ばかりのパーティで、わざわざ通ろうとする理由はないのだし、酒場で聞こえてくる愚痴を浴びていると、三人からは諦めた笑いしか出てこない。ダージュが度数の低い初心者向けの果実酒を三人分頼み、しばらくすると、店員が空になったグラスにそれぞれ注いで、残った瓶を置いていった。
「いや、二十歳までもうちょっとあるし、遠慮しとくよ」
夏樹がグラスの上面をふさぐように両手を乗せて言う。ダージュはわざわざ席を立って夏樹に近寄り、肩を掌でばんばんたたいて笑った。
「ここはニホンじゃないんだぜ。誰も文句は言わねえよ。」
ダージュが夏樹の耳のピアスをはじく。
「何かあったら、俺が言ってやる。俺たちの集落の成人だ。北から戻った後なら、それを周りに見せれば、一人ぐらいこいつの意味が分かるやつがいるだろうさ。」
飲みたくないなら無理に飲まなくてもいいよ、とフリューシャが言うと、ダージュは席に戻って、つまみの干し肉をひとつくわえて黙った。
「昨日と今日売ってなかったのも、全部明日には入るんだし、明日それ買ったら、出発でいいかな?」
必要な会計を済ませ、フリューシャがメモをチェックしながら言う。二人が同意して、いつ最後の店を回るか軽く話し合って、三人は宿に帰ってさっさと眠った。
フリューシャは二人が付いてきてくれることに安心と喜びを覚えている。ダージュは二人が少しずつ旅や世界に慣れていくことに嬉しさと自分が引っ張ってきたという自信を持っている。夏樹は二人が自分も集落の一員として見てくれていることに連帯感をと責任感を覚え、それでも不安はなかった。
三人は、何事もなく眠り、朝を迎えた。
次回は明日投下します