番外 長耳族の成人の儀について
長耳族は、100歳を成人の区切りと考えている。他口種や地球人の18歳程度に相当する。一部を除くほぼすべての集落で、独特の成人の儀を行う。
簡単に言うならば、自らを見つめる旅である。旅の途中で長老格の長耳族から試練をもらい、それをこなすことで自らの才能や実力を確認、あるいは磨いてから古い聖地の巡礼を行い、聖地から戻ることで成人とみなされる。
古くは強制的な修行の旅であり命を落とすことも珍しくなかった。ここ数百年は任意であるが、行わないと集落内での信用が低い場所もまだ多い。試練の内容もかつては秘境へ赴く、未開の地である南方からそこにしかない薬草や鉱石を持ち帰るなどの厳しいものであった。昨今では初歩の魔法や、話を聞く、ちょっとした素材採取などが多い。
手順としてはまず、98歳か99歳になると、専用のピアスを付与される。左右どちらかの耳につけ、反対側の耳にも染料で印をつける。
99歳の誕生日や集落の記念日など、100歳を迎える少し前に旅に出て、各地の長耳族の魔導師から試練を課してもらい、それをこなす。試練を課した者が認めれば、ピアスに黒い線が刻まれる。この線を最低でも3本、多くは6~10本集めてから聖地巡礼に入る。
聖地巡礼は、大陸の北西部の、国家のない広大な空白地帯を、基本的に自ら(試練を受けている者)の力のみで進み、点在する古代文明の遺跡で祈りを捧げて行き先を乞う。乗鳥を使うことは許されているが、ひと月は歩かなくてはいけないので荷物を載せることが主目的になる。自動車や自転車のような機械類は禁止だが、そもそも舗装がないどころか平らでもない場所や泥や沼のような場所もあり、地球のオフロード車のようなものが生まれない限り結局ろくに進めず使用する意味はないと思われる。
遺跡の周りには、あえて他者から離れ修行の身となった魔導師やその子孫が少数で暮らしている。洞窟など天候の悪化による避難はできるが、食事の提供などは絶対に行わない。手を貸すことになってしまうからだ。
昔は常時魔物が出たこともあり、一人で旅を、特に巡礼をする者はほぼいないと考えられている。多くは3~6人で旅をする。ちなみに、他口種が成人に関する行事を行うのは14~18歳が多く、やはり形骸化や廃止が多い。個人ではなく、日本の成人式のような集まって話をして解散という形式は楽なので、西方の都会では多い。
夏樹が成人の儀を行っているのは、彼の任意であり、ハーフや転入者は旅についていくだけかそもそも旅に出ないで待っていることがほとんどである。
次回は明日投下します。