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うらやましくなんか、ない

 諸王国を出る前に、五人はクリスティンの仲介で彼の知り合いの商人と会うことにした。特に、試練で北西へ行くなら、乗鳥は必須である。短くても三か月はずっと必要になるから、借り続けるよりむしろ買うほうが安く済む。


 乗鳥の業者が、魔法学校時代からのクリスティンの知り合いだという。名前はアルト・クリスディアという。

 クリスティンとは、社会的地位や苗字でなく名前で呼び合う仲であるという。クリスの紹介ならと一行に選んでくれることになった。彼は仲介業者で、鳥の産地や農家からの情報を載せたカタログを用意し、客に合った鳥がいれば、その鳥を受け取りに行く。


「試練に行く三人用に、三頭でよろしいのですよね。それなら、近くに大きな業者がありますから、見に行って決めましょう」


 アルネアメリアのような極端な都市ではないにしても、諸王国は現代でも十分に栄えている、街がかなり広がった人口の多い国である。それが、郊外とは言え、前に立ち寄った有名な鶏舎に負けない広大な敷地いっぱいの牧草地。のんびりと歩き回る乗鳥たちと、リストを見ながら様子をチェックする係員たち。


「このあたりでは最大の業者ですし、時間をかけて複数の場所とやりとりするより早く決まると思います。皆さんへの負担も減りますよ」


 三人は早速見せてもらい、何頭か乗ってみて、一日かけてそれぞれの一頭を選んだ。


 アルト氏は、夏樹がやや不慣れながらも、滞りなく乗り降りするのを見て、お上手ですねと褒めた。鳥に着けるあぶみなどについて、長耳族用しかないときの工夫などを教えた。

 フリューシャには、お茶を専用にブレンドして匂いを覚えさせる昔からの知恵について話をした。鳥が飲めない茶葉に似た香りのお茶を飲むときに匂いがいかないようにとか、基本的なことだけでなく、集落やリャワで扱っていなかったような、東方などの異なる地方の茶葉の扱いについても話をして、フリューシャは熱心にメモを取っていた。

 三人の中でまとめ役っぽいダージュには、乗鳥同士の仲裁の仕方などをさりげなく教えていく。


 アルト氏は業者の者に、声をかけ、鳥についているタグで所有者を確認した。

 所有者の住所が近かったので、アルト氏はそのまま業者の者とともに売買の契約へ向かうという。三人は、出発の前に受け取るための窓口を確認して、残りの仲間の待つ場所へ向かった。




三人がそれぞれの鳥を受け取って旅立ち、試練の旅の仕上げから帰ってきたとき、受付で待っていたのはアルト氏と鶏舎の業者の人だけだった。一度買われたものを買い取るという形式をとるので元の所有者も立ち会うはずなのだが、姿が見えない。


「あの所有者だった男は、フリューシャさんの仲間に転移者とドワーフと獣人がいるのを後から知って、買い戻すときに吹っ掛けようとしてたんですよ。同じようなことを、他の、クリスティンの知り合いにやったんです。それで廃業しました。彼の鳥たちは、こちらの業者で全部引き取りました。」


 アルト氏は音声メッセ―ジを再生した。


『これから、列車網と飛行船網が徐々に開業し、大陸内での交流は、南北間も東西同様に交流が日常的なものになるだろう。今、西の多くの港で東方人が仕事をもっているのと同じように、森の集落のエルフが北方で茶やコーヒーを出す茶店ができ、南方開拓の先端で、村づくりに必要な道具を打つドワーフ鍛冶が不可欠になるだろう。


 確かに、みんな仲良くとはいかない。時間感覚の違いで仕事に支障が出るし、住環境や食習慣の違いで私から見たらばかばかしい、くだらない喧嘩をする。転移者に至ってはまず技術格差で何を言っているのかわからぬ。


 しかし、あいつらは、ずっと、パーティとしてうまくやっているように、私は思う。ドワーフと集落のエルフが同じ場所で寝起きし、転移者のスマートフォンを西方人が活用し、獣人が人間の町を守るために全力を尽くした。全くの夢物語ではないということだ。


 少なくとも、自らいさかいの種を育てる者の理屈が、この私、クリスティン・ノヴァレグ・リュフォン・ブディア・スティアーナには理解できんな。』


 さすがに領主的な立場で話しているので自称が「ぼく」ではないしあの笑い声もないが、何となく、三人はそれぞれの耳の奥に、クリスティンの笑い声が聞こえるような気がするのであった。

次回は3~4月中に。

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