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なぜ気づかなかったんだ 2

 この王宮は、諸王の中のひとつブディア家の輩出した王の住処であった。国有地の公園として開放されているが、管理はブディア家の当主が行っている。


 ブディア家はある代の当主に息子がなかったため、数代前の当主の息子(絶えた当主からは縁遠いが直系ではある)の子孫が、諸王の他家のなかで生き続けている。もともとは七つだか八つだかあった諸王家も、いまは三つか四つしかないと言われている。

 ブディア家はまだましだ。完全に断絶し、直系の子孫がいない家もあるし、一番初めに断絶した家系は、そののち唯一残った傍系の子孫が病気で全滅した。


 そんなわけで、今のブディア家当主であるクリスティンが、自分の管理下にある王宮のひとつや二つに訪れることに何の支障もない。ちなみに、彼は名前の通り、複数の諸王家の当主または当主候補である。つまり、彼は王位継承者のひとりだ。何度か名乗っている通りである。


「じゃああんた、王様になるの?」


 手首を縛られ、小突かれながら歩いているのにもかかわらず、猫獣人のテトグが体を乗り出す勢いで尋ねた。手錠の繋がった先を握る警備兵が小突くのをやめで一発肘で彼女の脇腹をどついた。


「すぐにお前たちだけ出してやるとは言え、これから一度牢に入る者がなぜそんなにも楽しげなのだ!!初等学校の遠足のガイドツアーじゃあないんだぞッッ!」


 大げさに腕をひらりとかわして、クリスティン殿下はうんざりした表情を隠さず、わざとではないかという大げさなため息をついた。


 螺旋階段を降り、地下牢に一度全員を放り込む。あとで出す五人は面倒なので一か所に固めたまま。許可書を持たずに入った一団はこれからしばらく入れておくので、きちんと一人ずつ振り分けていく。

 指示を終え、五人と一体を連れたクリスティンは適当な応接間に入り、五人に適当に座るよう勧めた。フリューシャとテトグはつい椅子で跳ねて遊び、部屋の空気を冷たくした。さすがに、座ってではあるが、音を立てて跳ねるのはよろしくないだろう。


 彼が冒険者時にも連れている精鋭の護衛の一人が、茶を運んできた。毒見を示すために目の前で別の小さなカップに茶を淹れて飲み干した。

 よいぞ、とクリスティンは声をかけ、護衛が七つのカップに茶を淹れる。一つはカップというより深めの皿で、波動生物であるハユハユの分なのが明白だ。護衛がテーブルにカップを丁寧において、素早くクリスティンのそばに控えた。


「本来ならば、一度牢に入れたのだからか金品を出してもらうのだが、今回、わたしは、お前たちのその裏のない人間性を熟知しているから、免除してやるし、さらに、依頼を授ける。決して、国内の人員が足りぬからなどではないぞ」


 クリスティンが話し終わらないうちにテトグと夏樹が吹き出しそうになったのでそれぞれ隣にいたタリファとダージュが素早く口をふさいだ。




 依頼は、簡単に言えば国内に入り込んだスパイ探しであった。その間の住処は、クリスティンが所有する別荘の一つを提供するという。

 候補として挙がっているだけでももう一〇人ほど。そのうちの一人に、定期的に行商に来る商人との接触予定がある事をつかんでいる。

 期限は、商人の滞在期間+一週間。ただし、一組も捕まえられなかった場合は、別荘の滞在費を相場から見れば格安とはいえ、それなり取られてしまう。


 五人と一体は、依頼を素直に受けることにした。断ると一気に護衛が襲い掛かってきそうな雰囲気だったのは非常に大きい要因である。

次回は2月中の予定です。

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