旅を始めた頃には 1
首都アルネアミンツから離れた六人と一体は、北東を目指しています。馬車や乗鳥車を借りて国境を越え、東西に伸びる山地に近づくと、アーシャ式のビルはもちろん見えず、それどころか四~五階建ての伝統的なルプシア風建築も見られなくなっていきます。
建物の間に畑や草原や果樹園が広がるようになり、やがて、一~二階建ての一軒家が離れて建っているのを森が囲んでいるふうに見えるようになりました。宿泊施設やキャンプ場などにある、車を返すところを探した六人と一体は、近くの家のそばで話をしているおばあさんにたずね、集落で唯一の宿屋を教えてもらいました。
車を停め、宿泊日数ぶんのお金を払うと、フリューシャは、テトグとシュピーツェを連れて、森に入ることにしました。森に入る門前で、食事用に数匹小動物を取るのだと三人が説明すると、門の係りの人は、熊が出るから山の奥のほうまでは入らないようにといいました。
「あたしは狩猟許可証の上位の資格もってるから、六人でなら熊狩りもいけるけど、どうするかは戻ってから話し合いだね」
テトグが二人に言うと、フリューシャがあまり乗り気でないような返事をしました。やりとりを聞いていた係りの人が、参加しないなら長居せずに早く済ませて帰りなさいと声をかけたのもあって、三人はあまり分け入らずに、ウサギを一羽捕まえ、捌いて持ち帰りました。
帰ってきた三人が宿で場所を借りて、ウサギ肉を焼きはじめたところ、部屋から出てきた夏樹と、買い物から帰ったタリファとダージュが三人に気づいて集まってきました。夏樹がならべてある肉に気づいて下ごしらえの塩胡椒や薬味を手でつけていると、買い物かごにまぎれていたハユハユが抜け出てきて感心したように頷きました。
「おまえも変わったな。最初はどいつもこいつも、なんとまあひどかったことか」
火をつかうための場所がいくつか並んでいて、六人のほかにも肉や野菜を調理する姿があります。ハユハユはちらりと他のパーティーの姿を見やってから、肉が焼けるところに目が釘付けです。
かごから出した野菜を切って肉の周りにならべながら、フリューシャが僕も?とたずねると、
「当然なのだー」
肉から目をそらさないままハユハユは気が緩んだ声で言います。
「地球では、もう狩りをする人は居ないのかい?」
フリューシャがたずねると、夏樹は頷きました。
「たぶん。二十一世紀の途中から記録がないから、居るとしても文化を守る法律で守られてる先住民とか、ジャングルの奥地の人とかだけじゃないかな。魚も、釣りとか禁止されてる場所ばっかりだし。
そもそも鉄砲とか強い弓矢とか、そういう道具を持つことをお父さんの時代で禁止されちゃったから、出来ないと思うよ」
夏樹がこの世界に着いたとき、まな板の上の魚すら触れない様子で、ステイ先の家の主婦、つまりはダージュの母がその魚を捌く様子を見て気分を悪くしたことがありました。夏樹の母親も魚が触れず、買うときに捌いてもらうか、切り身を買っていたので、見たことがなかったのです。
それらを思えば、魚を開いたり、肉の捌く途中を手伝ったり出来るようになったのは、大きな前進であるといえます。
「そういえば、一年くらいかな。まだ。」
フリューシャとダージュはカレンダーを振り返りました。
「最初は三人だったでしょ?大変だったんじゃないかい?」
タリファが言うと、シュピーツェとハユハユが話を促しました。焼けた肉や野菜を取り分けてから、三人は旅を始めた頃のことを話し始めました。
次回は水曜(20日)か木曜(21日)に投稿します