アーシェと別の意味で差別がひどい場所の話 2
そこで話は終わり、皆作業をしているうちにすっかり話の内容を忘れてしまった。
それから五日ほどたった最終日、作業場で三人が自分の場所を片づけているときにオーナー夫婦が通りかかった。話題になっていたことを知ってか知らずか、オーナーの夫が話をした。
あの集落には、周りの集落の生活習慣や風習があるだけで、特別な日のお祭りやイベントがなかった。その場所には祭るものもなく、しかし元の集落の土地神を祭るのも嫌だった。
当時は集落ができてからたった数十年かそこらだし、もう魔法が廃れて久しい時代だ。力場もないし分からない。だからそういう聖なる場所を祭ることもできない。
そういうわけで、彼らはいつしか、ままごと道具を捨てる際に、家事の上達や家庭の円満を願って焚き上げを行うようになっていき、それが続けられていくうちにその日が祭りの日となった。
祭りの日、男性は屋台で料理を作ってふるまい、『成果』をアピールする。アーシェの祭りのように、祭りの出し物や雰囲気を楽しんで帰る。
一方、女性は子をなすための品定めをし、夜、評価の高い者にアタックする。また、評価の低い男にもその評価を容赦なく浴びせるという恐ろしい慣習が生まれてしまった。
容赦のない評価を浴びせられた男たちの中には、心が傷つき、集落から逃げ出す者が出る。たいてい、行く当てはない。
理由は違うが集落を出た、何代目かのオーナーの夫は、彷徨う者たちを見つけると、生活の当てができるようにと従業員として大勢雇い入れていたという。
雇い入れの理由を知ったオーナーは、雇い入れた者たちが仲間を連れてこないように厳しく管理し、箝口令を敷いた。
それが始まりとなったのであって、作業場のしきたりは、集落の風習には関係なかったのだ。
「そんじゃあ、ほとんど必要ない約束じゃあねーか!!」
あの古参ドワーフが叫ぶと、周りの者たちはおののいた。オーナーの夫もびくっと肩を震わせたが、オーナーはにこにこと微笑みを崩さぬまま、うふふ、と笑った。
報酬を受け取り、荷物をまとめて出ていくとき、ダージュと夏樹は互いに、あんな恐ろしい女性と当たらないようにしたいな、とささやきあった。しかし、鈍感というか、平然としたままのフリューシャは、共に作業した仲間たち含めたささやきに気付かないでのんきに歩いていくのであった。
次回は10月中旬までに投下します。