表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/171

アーシェと別の意味で差別がひどい場所の話 1

 ある日、フリューシャ、ダージュ、夏樹の三人は、泊まり込みの仕事先であてがわれた部屋でじっとしていた。この仕事は宗教的な儀式に関する道具を作ることが含まれているため、女性と両性族(全員に女性性が含まれているから)は受けることができず、女性であるタリファとテトグは別の仕事を請け負い別に宿をとっている。


 じっとしているのは、単に目や手先が疲れたこともあるが、仕事がすべて片付くまで従業員だろうが冒険者や旅人、日雇いの者だろうが、社長の家族だろうが、全員作業場の敷地から出られないからだ。

 全員が作業場の横の長屋に押し込まれている。日本人で安アパート暮らしだった夏樹から見れば一部屋は広いはずだが、一〇人ほど突っ込まれていて、広さを微塵も感じさせない。


 三人のほかはアーシェ(地球)でもないシェーリーヤでもない世界から来た蜥蜴人リザードマンで、何もせずただじっとしていることにも慣れているという。寝床に座ってまるで石のように固まっている。

 彼らには退屈という言葉がなさそうだ、とダージュが言うと、一応


「そんなことはない」


という返事はあったが、じゃあ今退屈なのかと聞いても


「そんなことはない」


と答えるので、夏樹とダージュは頭を抱えていた。



 はじめの数日は、本を読んだり昼寝をしたり、アーシェとこちら両方のトランプゲームをしたり、夏樹のスマートフォンでゲームをしたり、と暇つぶしに遊べたが、この作業場の敷地内では充電できないし、作るものの制約で充電するために誰かに渡すこともできない。


「昔、もっと厳しかった。作業場の中で口をきいたらダメ。作業場に一度入ったら、外に出てダメ。作業場の外にいる人と触れたら、ダメ。そもそも荷物がダメだった。なーんにも、なかった。

 作る、食べる、作る、寝る、作る、食べる、作る、一日終わって寝る。その繰り返しだったんよ。それじゃ今は人が来ないし、使うほうもそこまで厳しくなくなったから、数年前にこうやって寝床を作ることができたわけよ。」


 古参のドワーフがリザードマンとフリューシャたち三人を交互に見ながら言った。その場にいた誰かが、その古参ドワーフに尋ねた。


「で、あれは何する道具で、どんないわれがあるんですか?」




 彼らが作っていたのは、ままごとセットのような、木やわらの人形や家財道具だ。

 この世界は女神信仰が多く、アーシェに比べたら母親を重視する傾向がある。DVなんか見つかった日には夫は村八分にされるとか妻の両親に私刑にされるという地域が長く残っていたくらいだ。


 それでも、男性が仕切ったり、女性に立ててもらったりする場面がないとか重要でないというわけではないし、立ててもらうようになりたいという願望は存在する。


 人形と家財道具は、作業場の裏手の丘を越えた先にある三つほどの集落でのみ使用する。そこはもともと、近隣から村八分にあったり自発的に出ていった者たちがこっそり暮らしていたところから始まったため、男の割合が圧倒的に高い。

 ちなみにアーシェは基本的にやや男性が多くなっている(一〇〇対一〇五ほどらしい)し場所によってくずれるものの男女の差は少ない。シェーリーヤは逆に女性の比率が高い地方が多い(両性族は固定化された人でも計算に入れない)。


 その集落ができたころには、遠くから女性をさらってくるとか国を出たい女性をかくまって連れてくるということまで行われていた。それでも無理やり連れてきた女性が定住するとは限らず、人道的に問題があるので、近隣の国から軍隊が派遣され丘の周辺にずっと配置されていたこともある。


 そこで男たちは無理やりさらってくる同然のやり方を変え、女性側が納得するまで説明をして、穏便に出国させ、定住してもらうように大改革を行った。

 以前のような方法で女性を連れてきた者は集落から追い出し、女性を元の国や希望する国へ送り届けた。何より、女性に魅力を感じてもらうために、家事を自分たちで行うようにした。さらに、子どもができると、男女両方ともに、幼いうちから家事を教えることにした。


「……そんで、子どもに使わせていたままごとの人形や道具がどんどん精巧になっていって、競争が起こった。ほとんど紛争だった。奪い合いになって、狭い集落で三つの派閥に割れた。

 細かいことは知らんしどうでもいい。とにかく、奪い合いを止めるために、全ての家で同じ道具を使えばいいということになった。」


 最後に嫁いできた女性の実家が手芸品を作る作業場を持っていて最初はそこで作っていた。

 それが遠すぎるので輸送の費用や時間を減らすため、今の場所に改めて専用の作業場を作ったのが最初である。


「じゃあ、男だけで作業する、っていうのは必要ないんじゃないかなあ」


 フリューシャたち三人がそんなことを言うと、古参のドワーフは首を横に振った。


「そいつだけは、俺も理由を知らないんだ。」

次回は明日投下します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ