休息は退屈か 1
内容をあまり覚えていない嫌な夢。目を開けると、額や頬をねばついた汗がゆっくり落ちていく。横になったまま、何度か瞬きをして、見えるのは夜明けの空ではなく、建物の天井である事に気付く。
シュピーツェは飛び起きた。嫌な夢は、意識を失う前のあの恐ろしい魔物のことか。それとも失っていた記憶のなかの何かか。
思い切り体を起こして、自分の状態に気づいたと同時に全身の痛みが襲う。切り傷は、ひどいもの以外は痕すら薄くなっている。転がされて全身を痛めているのだから、仕方ない。シーツをひっつかんで噛みついて声を殺しながら、現状確認とばかりに、記憶をたどる。
壁にかかったカレンダーから、自分が一週間は眠っていたことを知る。まだ痛む首をゆっくりと隣へ向けて、生活感のある空のベッドを見やる。一緒に運ばれたアクヴァは少なくとも自分よりはずっと症状が回復したようだということだけ、即座に分かる。
壁紙やベッドの配置から、内装は規格化された病室であることが分かる。ただ、自分の重傷のわりに設備は簡素で、西岸にある医療の国にはもちろんたどり着いていないのだと、多少医学や治癒術をかじった者ならだれでも気づける。
厚いカーテンの端を少々めくって外を見ると、真新しいアーシェ式のビルが何本かと、それより旧式で角が少し丸みを帯びた、アルネアメリア式の七~八階建ての高層建築が見える。そのうちのいくつかのてっぺんに、平野部式の平たい民家がのっかっていて、まだ東平野を抜けていないのが分かる。
あれだけの高層建築がある東平野の町は、古くからの交通の要衝であるトゥルカン市しかない。貧弱な治療しか受けられずにここまで死なずに済んだなら、きっとここでずいぶんと楽になれるはずだ。
ここまでこれば、ちょいと無理すれば一日でアルネアメリアの手前くらいまでは運んでもらえるだけの街道整備はされている。よっぽど悪化しなければ、あるいは、恐ろしい呪いや病気や毒を見落としてでもいない限り、死ぬことはない。ちなみに、同じ距離を、ここから東~砂漠ならば一週間か十日はかかる。
朝の、やや低い角度の光が、アーシェ式ビル群の一面を赤くしている。さあて、もうひと眠りするべきか、身体だけ横たえ朝の時間を過ごしてやるか。シュピーツェは汗でべたついた寝間着をはだけさせようとして、両腕が手先まで包帯で覆われていてボタンの開閉ができないことにやっと気づいた。カーテンをつまもうとしていればそこで気づいたのかもしれない。
ちょうど戻ってきたアクヴァも、包帯人間といった外見だった。こちらは寝間着ではなくゆったりした検査着だ。青灰色はお揃いである。シュピーツェが寝間着のボタンを開けてほしいと頼むと、彼はそれよりいい方法があると言って看護師を呼び、着替えをするように頼んだ。
「動かせなかった分、その寝間着も三日目ですから、清潔にしませんとね。」
着替えだけではなく、風呂までその場で予約して、看護師は準備と他の患者のために去っていった。