ずれてしまいそうな会話 1
護衛任務を終え、商人と別れた五人。その町でそのまま宿をとって、数時間眠った。
冒険者たちは最後に交代して眠っていたパーティ以外、皆寝不足のまま移動してきた。夜中から朝方まで起きていて、それから三十分くらいしか眠る時間をとらせてもらえなかったのだ。
例の魔物さえ片づけ、街道に入れば、あとはパーティの一人か二人が起きていれば済む。それで町に着くまで交互に眠りはしたものの、疲れのせいですぐに眠気が戻ってくる。安い宿かキャンプ地か、観光用のホテルかという違いはあるが、たいていのパーティが解散してすぐ宿を探しに散っていった。五人が選んだ宿にも、何組か、同じ護衛任務を受けていたパーティの姿がある。
昼過ぎに目を覚まし、朝食と昼食を兼ねて適当に何か腹に入れようと、五人は町に出た。
前に立ち寄ったギルの町が近いから、明日はさっさとそちらで乗鳥を借りて、北西に向かってしまおうか。向かうにしても、どこまで行こうか。そんな話をしながら、五人は多少疲れが見える足取りで通りを歩く。足が棒のようというほどではないが、まだ思っていたよりも足が重い。
「ねえシュピー、あの店はどうかな。見た目さびれてないし、かといってものすごく混んでる気配もないし。」
タリファはそういってから、四人の顔を見て、「あ」と声を上げた。それを無視するように、いいんじゃないかな、とダージュが答え、見つけた店のほうへ足を向ける。
「おおう、おいしそーな匂いじゃん! これはいいカンジだよぉ」
テトグが一足先に駆け出し、やれやれといった風な顔で四人が追いかける。
時間を少し外したので、狙い通り空席がある。町が見える窓際の席で、五人と一体は安いおまかせメニューを選んだ。日本にあるランチメニューのような、メインのものと前菜、飲み物がセットになっている。その時にある食材でメインと前菜の中身が変わり、『本日の料理』という掲示がボードに留めてある。
交通網が弱い分、地球の、特に日本のレストランやファミレスのような豊富なメニューはまれだ。この形式でもまだ食材の仕入れが豊富なほうである。
多くは、メニューが壁にかかっていたり机に置いてあったりして、「これはありますか?」と聞かなくてはならない。運が悪いと、「この中で今出せるものはどれですか」と尋ねることになる。タリファはその手の注文方法にも慣れていて、明らかな都会以外つい「どれがだせます?」と聞いてしまい逆に恥ずかしい思いをすることもある。
「はぁ、北西平野まで抜けるとこんな料理も食べられなくなるわねえ」
注文の料理の肉を割きながら、タリファが呟いた。
「仕方ないよ、魔法とか技術とかの修行を兼ねた旅なんだし」
「昔は完全に精神修行とか魔法や武術の完成が主だったらしいからな。冒険者の時代だと、完成できなきゃ生き残れないというか、冒険以前の話だったわけだしな」
同じ肉を切り分けながら、フリューシャが応え、ダージュが珍しく、行儀悪くフォークを振りながら話した。
「ナツキのいたとこにも、成人の儀式ってあるの?」
肉にかぶりついて口いっぱいにほおばりながらテトグが訊く。
「うう……あると言えばあるけど、僕にはわかんない。ああ、近所の人をみた感じ、修行なんて全然ないよ。市の体育館とかで市長とかの話聞いて、えっとあとは同窓会みたいなやつやって終わりらしいよ。
……ずっと昔の元服だと何かあるかもしれないけど、もうそんな儀式する人がいるとも思えないや」
口の中の肉を飲み込んで、夏樹が話す。興味深そうに聞いていたテトグは残念そうな顔をして、また肉にかぶりついた。
「ちなみに、だ。我々波動生物には、子どもと大人という区分がない。あえて言うならば、波動を受け、解するようになれば大人と言える。身体の作りはおそらく変わらず、他の生物のように子孫を残す営みを行えるかどうかという区別も必要ない。よって、わし個人の考えにはなるが、『波動生物は基本的に生まれてしばらくたてばすべて大人である』といったところか。」
食べ終わったハユハユが唐突に話しだし、既に食べ終えていたテトグだけがふーん、と反応した。
次回は明日投下します。