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ひとたびの別れ 3

 交代まであと少しのところ、何人か次のパーティの人が起きてきて、体を慣らし始めているときだった。


「何かいる」


 音は聞こえない。夜目が利くフリューシャとタリファがほぼ同時に何かを見て、指をさした。誰かが双眼鏡を取り出し、フリューシャが受け取って覗いた。


「僕より一回り大きいくらいかな……黒い、人みたいなものがひとつ見える。遠くて良く分からないけど、逆に、これだけ形しか見えないのは魔物かな。」


 別のグループでも気づいたのか、声が上がる。低い笛の音が鳴った。鳴る前から手の空いてる者たちが手際よく寝ている者を起こし、何回か鳴るうちに全員起きた。商人たちは車に乗り込んですぐ動けるように整えている。


 『例の魔物』を知っている商人が出現を認め、発見者であるフリューシャがそのまま魔物の様子を見たまま話し、知らせる。近づいても、黒く塗られた人に見える。

 何組かのパーティを残し、商人たちを巻き込まないよう一〇メートルほど前進して待つ。少し何もなくて距離感がつかめないがまだ一キロ以上離れているだろう。


「そろそろこっちに気付くくらいかな……魔導師は補助魔法をかけて。向こうが気づいたら、リーダーの指示通りに!」


 数秒ののち、フリューシャは真っ黒なそいつに、ぽっかりと目のような光を見た。同時に、魔法で灯りを高く打ち上げ、リーダーに双眼鏡を渡した。

 あちこちで魔法の詠唱がささやかれ、淡い光がゆらゆらと漂った。商人たちががたがた震えながらも、しっかりと周りを確かめている。


 やがて、地面がわずかずつ揺れ始め、オオオオオオオと獣の遠吠えのような声がした。まだ数百メートル離れている。


「第一波、撃て!!」


 リーダーの号令と同時に魔法と矢と弾丸が飛ぶ。ほとんどが魔物に当たったが、魔物はただ歩いてくる。珍しい投げ槍士がいて、脚部に見事当てるが、はじかれて槍は地面に落ちた。

 前衛の第一陣が例の魔物に駆け寄って、二陣と交互に足の一本に集中攻撃を始める。切るより叩くための厚みのある剣や、重量のある斧やハンマーを使っている。魔法の二射目が飛んで、例の魔物は足を止めたが一瞬でしかない。


「攻撃魔法はこのまま続ける!補助は切らすな!前衛は手ごたえがなくても切れ目なく叩け!」


 リーダーは全体を見ながら指示やげきを飛ばす。攻撃が途切れればその時点で死が近づく。上半身に向かってうまくタイミングを合わせて魔法を飛ばし、足をひたすら前衛に叩かせる。


 この魔物は本来違う地域にのみ生息が確認されているものだ。分かっている唯一の攻略法は、どこか一か所を攻撃し続け、範囲攻撃を撃たせて直後に大技をたたき込むのを、奴が砕けるまで続けることだ。

 目くらましは魔法でも薬品やお香でも効かないから足止めはハンマーや斧のような重いもので殴り続けるしかない。硬くて、切れるとしたらおそらくオリハルコンのような伝説的な材質が必要と推測されている。

 範囲攻撃の後のわずかな間だけ、それなりの質の剣であれば切ることができる。もちろん、切れない間にオリハルコンを試した記録など存在しない。


 ちなみに、撃退されても何個体かいるか復活するかで二、三か月後には元通りである。魔法生成物、特にゴーレムに何か色々掛け合わせたものではないかという意見はあるが、それが分かったところで今のところ意味はない。どこから来るのか、なぜ現れるのかもわからない。それらが分かるまで目撃証言を集め、監視をして、逃げて、人を集めて倒すのを繰り返す。


 今回の遭遇で、遠距離魔法を当てるときは属性が揃っているよりバラバラのほうがいいという情報が蓄積されるくらいで、効果的な方法が発見されるまではただ繰り返すだけなのである。




 戦いが長引くせいで、先に起きていたメンバーは眠くなってきていた、リーダーの指示で、遅寝に慣れている夏樹も含め、補助魔法や残した者と少しずつ交代していく。


 と、そこで範囲攻撃の兆しが見えた。避けるには、奴の後方に回るか、奴に触れるか、数メートル離れるかだ。リーダーの合図笛はこれ以上なく素早かったが、前衛の控えから抜け出したところで、少しおぼつかない足取りではとても離れきれない。

次回は明日金曜日に投下します

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