ひとたびの別れ 2
集合時間の一時間ほど前に起きた六人は、朝食だけ携帯食料で軽く済ませ、出発した。『家』の鍵を返すなど手続きを済ませ、リンドの西門の近くに集まった。そこでアクヴァと合流した。七人パーティで登録し、目的地で別れる予定だ。
まだ薄暗い時間なのに、門の周りは昼間のような活気があった。乗鳥車や馬車で最も大きい八人乗りが四台あり、商人と、冒険者パーティのリーダーなどが依頼内容などの確認や、雑談をしていた。
荷物ではなく全部人が乗っていて、護衛を大量に連れていたらまるで貴族の外遊だ。あまり大きな集団になるのも、盗賊に狙われやすくなるし、天候や事故などで分断された時の連絡などをあらかじめ決めておかないといけない。
今回は、車ごとにパーティを割り振ってあり、冒険者たちはすべて自分の担当する車の責任者の指示に従うことになっている。はぐれたりしたら合流が原則だが、あまりに離れてしまったり、例の強い魔物のせいであれば、とにかく逃げることを優先する。
やがて、日が昇りきる少し前、丁度この世界での日付が変わったあたりで先頭の車両が動き始めた。出入国相当の手続きはすべて済ませてあり、間隔を保ちながら進むだけだ。
低い草がまばらに生える、土にできているわだちを追いかけるように、まずは街道につながる道まで出なくてはならない。魔物が出る場所は、道に出るまでの間と、街道に出てからの緩衝地帯に何か所か。そのうちの一つに、それまではいないとされていた分類の魔物が出現したらしい。
最初の魔物地帯は何事もないどころか、下級の魔物数匹だったので先頭車両のパーティひとつで片づけられた。一応あたりを警戒してから移動を再開し、夜が明けたころに最初の休息時間となった。
食事を済ませていなかった者がいて、街道で余分に関所に寄らなくてはと言われていたのが、三台めの周りにいるフリューシャたちにも聞こえていた。
「さすがに、何か食べると、喉を湿らすだけってわけにはいかないからね」
多少野生動物や弱い魔物がはぐれているのと遭遇した以外は特に気になるようなこともなく、一日目は街道の手前で夕方から野営の準備をした。何もなければ一般的には街道に出て、野営用の場所を使うほうが安全だが、街道に出る手前に、問題の魔物が出る場所があるのだ。
暗くなってから魔物に遭遇するのは、たとえはぐれ魔物であっても避けるべきことだ。夜には魔物は力を増すし、昼やダンジョンとは違う行動をすることが多いからだ。最も弱い、小動物にとりついたものでも、夜に出会うと十人以上を一度に吹き飛ばす風を吹かせるとか、感覚を惑わせて同士討ちさせるとか、嫌な瘴気を出せる。まして、少し強い魔物なら。
真ん中に少し大きめのたき火。取り囲むように、程よい距離に商人たちのテントと車と乗鳥たち。さらに囲むように冒険者たちのテントや魔物よけの香草の灰の跡。夕食をとり、囲むようにグループごとに見張りを立てている。日程を管理している、商人の付き人がぐるぐると何か知らせて回ってきた。
「明日は夜明けのいっ時後に出発し、完全に明るい時間に例の魔物を倒す。了解した。」
グループのリーダーが付き人の言葉を反芻し、皆で確認しあう。見張りの順番を決め、それ以外の者は眠った。時間が遅くなると、どんどん灯りは消え、真ん中のたき火も消火を確認し、灯りは遥か遠くに見える小さな町明かりがいくつかと、目が慣れるにしたがって爆発的に増えていく空の星々だけになった。
くしゅん、と聞こえるくしゃみのような音は、乗鳥の鳴き声の一種だ。風邪ではなく、あくびや、喉を鳴らすようなものだと言われている。それに交じって、冒険者か商人かわからないいびきが、何人か聞こえてくる。耳の良い種族なら、どのテントから聞こえるのかもその場でわかりそうだ。他には何も聞こえない。
そのまま起きているフリューシャたちは、担当の方角や車を見張っていた。まばらに低い草が生えるくらいで、野営の外側に視界を遮るものはない。
ないはずだった。
次回は木曜か金曜に投下します